大井川通信

大井川あたりの事ども

九ちゃんとボンちゃん

猫たちにとっては、唯一のご主人様である妻がいなかった18日間は、ずいぶん様子がちがっていたそうだ。それでもその間、自宅にひとり残され、親たちの容態の急変に翻弄されていた長男にとっては、猫たちの存在はずいぶんと頼もしかったらしい。

特に、九太郎。我が家では、男気がある、不器用な男、というキャラクターになっている。産まれて一か月で、兄弟や仲間たちから引き離されて、我が家の一員としてのんびり暮らしてきた九太郎。今年からボンちゃんがやってきたために、精神に大混乱が生じてしまった。

攻撃する(うなる)。嫉妬する。すねる。先住猫なのに、隣りの部屋に「家出」する。やっていることは、もうすでにすっかり人間みたいだ。九ちゃんは頭がいい、猫でなくて人間、というキャラでもある。

生まれて半年で我が家にやってきたボンちゃん(リボンちゃん)は、猫の競争社会にもまれていて、社交性が身に着いている。そんなボンちゃんの気ままな振舞いが、九ちゃんには脅威に感じられるようだ。

九ちゃんのキャラは、天真爛漫。見た目は、生けるぬいぐるみ。九太郎の方が繊細さを兼ね備えた美形だけれども、スタイルや仕草のかわいらしさではボンちゃんには敵わない。

そんな猫たちの関係も、猫たちなりに我が家のコロナ禍を経験して、少し距離が縮まったような気がする。久しぶりに会った猫たちは、前よりもごく普通に一緒にいる場面が増えたようだ。妻によると、九太郎からとげとげしさが無くなり、前のような穏やかな猫に戻っているとのこと。

妻が、猫の絵が描かれたトレーを見せてくれる。以前のデパートの猫展(?)で買っておいたものだそうだ。花が咲き乱れた家の庭で、二匹の猫が遊んでいる。一匹は、九太郎によく似ているし、もう一匹もボンちゃんに見えないことはない。こんな暮らしがしてみたいと思って買ったという。

二年前に家の外構の改修をして、それ以来、玄関わきに作った小さな花壇に妻が花を絶やさなくなった。二匹の猫もやってきて、かつての妻の夢がかなったのだと気づく。

今さら後悔してもはじまらないが、妻には結婚以来、あまりいい思いはさせていない。猫たちに罪滅ぼしをしてもらってるのかな、と思う。