大井川通信

大井川あたりの事ども

押し入れの中

図書館で新しめの絵本を何冊か借りてくる。

『おしいれのぼうけん』(古田足日他  1974)は名作の誉れ高いが、僕が中学生の頃の作品なので、リアルタイムに出会ってはいない。今年の3月で246刷。図書館でも何度目かの買い直しかもしれない。

いたずらをして、保育園の押し入れに閉じ込められた二人組の園児が、「ねずみばあさん」という保育園に住み着く怪人に追われて、いつのまにか蒸気機関車と自動車に乗り、夜の大都会を逃げまわるという話。

たまたま手に取った『くろいの』(田中清代  2018)でも、押入れが重要な役割を果たしている。街中で見つけた黒い影の生き物に連れられて、古い大きな家にきた女の子が、押し入れから天井裏の別世界に遊ぶ、という話。

僕が押し入れという場所で、まず思い出す作品は、水木しげる貸本屋時代の鬼太郎シリーズだ。それで、久しぶりに『怪奇一番勝負』(1962)を読んでみると、その面白さはまったく色あせていない。

空き家の持ち主である殺し屋と、空き家に用のある鬼太郎との対決は、様々な仕掛けがあって飽きさせない。鬼太郎の「夢じらせ」で、巨大な異世界につれこまれた殺し屋たちが解放された場所が小さな押し入れだったりするなど、押し入れは重要な舞台装置になっている。

僕は今の家に、1997年から住んでいるが、押し入れらしきものはなく、初めからクローゼットと呼ばれていた。明るく清潔で、押し入れの暗さや怖さを感じ取ることはできない。

古い日本家屋の押し入れには、穴や破れがある。その穴や破れを通じて、床下や天井裏の闇の世界へと通じている。『おしいれのぼうけん』の園児たちも、その通路をつたって冒険へと出かけたのだし、鬼太郎も、それを異界への入り口としていろいろな妖術を使いこなす。

『くろいの』は新しい作品だが、どうやら舞台は古い日本の街並みだ。くろいのに導かれて屋敷に入るときも板塀の「破れ」をくぐるのだが、今の時代では、板塀もその破れも見ることはできないだろう。