大井川通信

大井川あたりの事ども

本籍を移す

社会人になって東京を離れて、もうだいぶ時間がたつ。途中3年ほど実家に戻った時期があったが、通算しても九州で過ごした期間の方が長くなってしまった。

今の家を建てて、この土地に骨を埋める覚悟ができても、あえて東京の実家から本籍を移そうとは思わなかった。本籍とは何かと深く考えたこともなかったが、自分の生まれ育った故郷にそれを残しておくのが自然だと感じていたのだろう。ただし、いろいろな手続きで戸籍の証明書をわざわざ郵送で取り寄せるのは面倒だとは思っていた。

三年前に実家で独り暮らしをしていた母親が亡くなり、次の年には、主の不在になった実家を正式に処分した。敷地と家屋は残っているが、もう僕たちには法的には何の権利もない。

ただし、その土地で僕が生まれ育ち、家族の生活が営まれた事実が消えるわけではないから、その事実を記念して本籍を残しておくという考え方も成り立つだろう。どこかに東京出身を自分のアイデンティティにしているところがあって、本籍はそれを証するものでもある。実際には、単なる不精で、本籍はそのままになっていた。

コロナの闘病をきっかけに、仕事や生活について大きく方向転換する決断ができた。「大井川通信」の舞台であるこの土地とフィールドを大切にして生きていく、という気持ちがいっそう確かになった。それで、新しい課題リストの初めの方に、転籍手続きをリストアップしたのである。

地元の市役所から郵送で戸籍謄本を取り寄せておいたので、今日、市役所で転籍の手続きをした。住民票の請求書などと変わらない、A4一枚の請求書の提出で、あっけなく手続きはすんでしまった。違いは、妻の署名と捺印も必要だというくらいのことだ。

たいしたことではなかった。それでも、転籍してよかったと思う。たいしたことでないことを、それでもていねいに、ひとつずつこなしていく。ちいさいことの意味を、大切にすくいとっていく。そうやって行こうと決めたのだから。