大井川通信

大井川あたりの事ども

35歳と生まれたて

『町を住みこなす』(大月敏雄  2017)をようやく読了。新書ながら充実の内容で、読みごたえがあった。

どんな家に住み、家とどんなふうにかかわるかは、生活の根幹の部分である。しかし、その部分は、自分の足元であるだけに、意識化されることのないブラックボックスとなっているようだ。自分にとって無意識のふるまいではあるが、実は、ある社会的な論理によって、誘導されているということがある。

この本は、家をめぐるこの「社会的な論理」を見事に解き明かしているが、なかでも「35歳と生まれたて」という言葉には驚かされた。日本の経済は、「35歳と生まれたて」に住宅を買ってもらうという暗黙の政策のもとに回っているのだという。振り返ってみると、僕自身、35歳の時に、2歳になったばかりの長男とともに新築の今の家に引っ越している。

さらに住宅(街)に対する好みだ。戸建ての住宅が一面に整然と並んでいる街を無意識に求めていたが、著者によるとこれが「昭和のよい団地のイメージ」なのだという。

しかし、転居して四半世紀近くがたち、周辺から子どもが消え(子ども会も昨年解散した)、名物だったクリスマスイルミネーションの飾りつけも少なくなり、住宅街はあっという間に高齢化を迎えている。

著者によれば、かつては忌避されていた街の多様な要素(賃貸アパートやマンション、戸建ての賃貸など)の存在が、各世代ごとの住まい方に対するニーズに応えて様々な住み替えを可能にし、街の持続性を保証するのだという。目を開かさせられる指摘だ。

住まうことに対する確かな批評の言葉を持った本として、大井川歩きの必読文献となることは間違いない。