大井川通信

大井川あたりの事ども

『いのる』 文・森崎和江 絵・山下菊二 2016

著者の森崎和江さんは、ご近所に住んでいる。著作集がでている著名な文筆家だから、いつかしっかり読もうと思いつつ果たせていない。ずいぶん前になるが、一度ご自宅の前で顔を合わせたので挨拶すると、家に招き入れてもらい、しばらく話をうかがったことがあった。

最近復刊された絵本だが、原本は40年近く前の出版のようだ。海上の女神の島や漁船によるお祭りのエピソードがあって、あきらかに地元を舞台にした作品だ。シュールレアリスムの素養もある山下菊二の絵は一枚一枚が際立っていて、森崎さんによるストーリーも、何かぶつ切りのようなぎこちなさがある。制作には特別な経緯があったと思うのだが、その説明がまったくないのは残念だ。

一応は子どもが主人公になってはいるのだが、ストーリーを展開するのが目的ではなく、海辺の古い村における様々な「祈り」のカタログをつくることが目指されているのだろう。神社や地蔵堂での祈りから、てるてる坊主まで、かつての村では当たり前の習慣も、今では大半が異国での土俗の暮らしぶりに見えてしまう。

地蔵堂に供えられた手や足の形の板切れで、自分の病気の部位を叩いて回復を祈るというシーンがある。これ自体は初めて知ったが、博多の信仰心のあつい家で育った妻は、似たようなことをやっている。神社に参拝したときには馬や牛の像の身体をなでてから、それを自分の身体の同じ部位にこすりつけて、病気を治してもらおうとするのだ。