大井川通信

大井川あたりの事ども

黒島伝治のエッセイをいくつか

新編集の文庫には、エッセイもいくつか載っている。小説では技巧をみせる伝治も、ここでは素朴でぶっきらぼうだ。

「入営する青年たちは何をなすべきか」では、青年たちに、軍隊に入ることで兵器の使い方と組織的な動き方を学び、来るべきブルジョアジーとの戦いに備えようと、盛んに檄を飛ばす。

当時の左翼雑誌に書いた文章で、なるほど当時の活動家は、入隊をこんなふうに理屈づけていたのかと納得する。マルクス主義の公式テーゼなら、こうなるだろう。

一方、伝治の小説では、戦地における軍隊が、人間の欲望がむき出しとなった暗い慣習が支配する場所であることを描き出す。そこでは、いかなることも「学ぶ」ことなどできないだろう。

小豆島を舞台として、旧村落の非情さと過酷な締め付けを描いた小説を残した伝治も、「四季とその折々」という田舎の自然と暮らしを愛する短文を残している。この田舎賛歌もまた彼の本音だったのだと思う。

 

「四季折々の年中行事は、自然に接し、またその中へはいりこみ、そしてそれをたのしむ方法として、祖先が長い間かかってつくりあげたもので春夏秋冬を通じてそれは如何にもたくみに配置されているように思われる」