大井川通信

大井川あたりの事ども

息子、帰る

先月初めに一人暮らしを始めた長男が、家に顔をだした。一時間もかからないところに住んでいるから、用事をしに立ち寄ったことはあるが、今回は猫の顔を見にゆっくりしにきたようで、母親のすすめで一泊して帰った。

社会人になっても4年間、そのままにしておいた長男の部屋を、今回は次男の個室に模様替えした。失業後に家に戻った2年弱も、「子ども部屋おじさん」と自嘲しながらも、けっこう居心地はよさそうだった。

中学生以来使っていた部屋が弟の部屋になったことには、少なからずショックを受けたようだった。もちろん冗談めかしていたけれども、おそらく本音だったのだと思う。思春期にくちうるさい親たちから我が身を守ってきた自室というものは、彼にとって大切なアジトであり、ぴったりと身になじんだ鎧だったのだと思う。

そんな「子ども部屋」がなくなったことは、親との関係も新しく更新されるきっかけになるかもしれない。帰宅しても、もう閉じこもる場所がないのだ。親たちといっしょにリビングでくつろがないといけなくなる。

もっともこの2年弱の経験は、家族の関係をすいぶんとゆさぶり、きずなを深め、成長させてきたと思う。この点だけは、コロナ禍にも感謝しないといけない。

妻の還暦祝いもかねて、昼間からしゃぶしゃぶの和食バイキングのお店にいく。一人暮らしでゆっくり食べる習慣をなくしたためか、長男の胃袋はすっかり小さくなっている。当然ながら親が会計をして車に乗り込むと、他人行儀に、ごちそうさまでした、と長男がいう。つづけて、この2年間ずっとこんな感じだったんだよね、と長男。それが家族というものさ、と得意げに僕。