大井川通信

大井川あたりの事ども

セミヤドリガ その1 -フィクションの試みとして

わたしは、宇宙をさまよっていた。

わたしは宇宙船の上で生まれたのだと思う。気づいた時には、星々のきらめきの中を、わたしを乗せた宇宙船はどこまでもまっすぐに飛んでいた。ときたま、宇宙船は、光のない暗い天体の上に降りたった。すると船体は、ざらついた地表の上を、じりじりと動き出す。何かを探るようにしばらく移動した後、固い地盤に尖ったパイプのようなものを突き刺すと、ごおごおと音を立て、地表のすぐ下を流れる液体状のエネルギーを吸引しているようだった。しかし天体に停泊中も、わたしは上陸を許されることはなかった。宇宙船の航行は、まったく自動で行われており、コックピット(操縦席)らしきものは船内には見当たらなかった。

私が暮らしているのは、宇宙船の本体から張り出したキャビン(船室)の中だった。

キャビンは、天体に着陸するたびに、部品を調達し、長年の間に少しずつ増築されていった。わたしの成長とともに、わたしの生活のために必要な物資が増え、より広い環境が必要になったからだ。

天体に停泊中、その宇宙基地らしき平地には、他の宇宙船が、並んで止まっていることもあったが、それを観察することで、宇宙船にも形や大きさの違うタイプやあること、また、キャビンのない無人の宇宙船もあることを知ることになった。

わたしは、ときどき深い眠りについた。

眠りの中で、わたしは、きまって、どこか見知らぬ天体に暮らす少年になっていた。少年になって、その惑星の湿った林の中を歩いていた。目覚めると、わたしは、かつて自分がそんな少年だったような気もした。しかし、実際には、宇宙船での退屈な日常が繰りかえされるばかりだった。