大井川通信

大井川あたりの事ども

『ヘリコプターたち』 五味太郎 1997

長男の子育ての時に、五味太郎(1945-)の『さる・るるる』という作品を見つけて気に入っていたが、今手元に残っていない。ナンセンスなコトバ遊びだが、忘れがたい絵本だ。

近ごろの絵本活動で、本屋で五味太郎の他の絵本も手に取ってみるのだが、やはり突き抜けたような才能を感じる。

それで、図書館で借りて来たのが本書。かわいい絵と単純なストーリーは、まぎれもなく五味太郎なのだが、ナンセンスとはいえない物語の予感と哀愁を帯びているのにはちょっと驚く。

緑と赤の二台の小さなヘリコプターが出会い、ひたすら飛び続けるだけのお話だ。初めは豊かな野原や森を越えて。しかし暴風の海をやり過ごしたあたりから不穏な雰囲気になって、戦争やそれによる廃墟が広がっていく。無人の教会の十字架にたどり着いたヘリコプターは、翌朝の朝日の中で、無数のヘリコプターの子どもたちを生む。初めから鳥や蝶みたいなイメージだから、これには違和感はない。

そしてラスト。ヘリコプターの子どもたちは散らばっていく。「新しい風の中―羽音たかく―命を回して」