大井川通信

大井川あたりの事ども

『ザカズー』 クエンティン・ブレイク 1998

日本版は、2002年刊行。今は品切れのようで新刊書で手に入らないのが残念。

クエンティン・ブレイクを『みどりの船』で知ってから、図書館で過去の作品をあさっているが、これは出色の出来だ。簡単で印象的なストーリーのなかに、子育てと親子関係の本質を、どんな詳細に論じられた書物よりも、的確で深く鋭く、しかし愛情豊かに描きだしている。こんな離れ業ができる著者だからこそ、『みどりの船』のような傑作が書けるのだろう。

ジョージとベラという二人のカップルのもとに、ザガズーという名の「ちっちゃなピンクのいきもの」が届けられる。しかし、そのかわいい赤ちゃんは、ハゲタカ、ゾウ、イボイノシシなどに変身し、乱暴狼藉を働いて、二人を困らすようになる。それどころか、最後には毛深いとらえどころのない生き物に成長して、二人の困惑は深まる。

しかし、ある朝、ザガズーは、素敵な若者に変って、二人を喜ばせる。やがてザガズーにミラベルという女友だちが出来て、結婚の報告のために実家に戻ると、ジョージとベラの二人は、茶色のペリカンに変っていたという話。

読み終えて、子どもの変身が、その成長と子育ての困難の比喩であり、大人の変身がその老いの比喩であるということを悟る。この変身の比喩は、単なるコミュニケーションの不全を表すだけではなく、動物と人間との連続性を暗示しているようで、とても深い。

子どもの思春期を、どんな動物とも違う、毛深い妙な生き物として描いたセンスにも脱帽。(諸星大二郎の「子どもの遊び」を彷彿とさせる)