大井川通信

大井川あたりの事ども

『木はいいなあ』 ユードリー(作)・シーモント(絵) 1976

原著は、1956年。木というものの良さを、見開きのページごとの場面で、次々にうたいあげている。絵も名もなき木々のように素朴でシンプル。

「木がたくさんあるのはいいなあ」「たった一本でも木があるのはいいなあ」「いえのそばに大きな木があるといい」

自分なりに木の良さがわかっているつもりだったが、こうしてストレートにたたみ重ねられてはじめて、木の恩恵を忘れかけていたこと、それを当たり前に思っていたことに気づかされる。

僕の実家には、となりに雑木林があって、一番手ごろなクリの木で木登りをして遊んだりしていた。もうずっと前に切られてしまったその木の事を久しぶりに思い出した。

僕が今の家の玄関先のケヤキの木に手を焼きながら大切にしているのは、子どもの頃の木とのかかわりの記憶があるためかもしれない。この住宅街の開発のとき各戸のシンボルツリーとして植えられたケヤキで生き残っているのは、我が家だけなのだ。

たくさんの鳥と虫が集まり、今の季節には若葉の美しさと、これからは日陰と雨宿りの場所を用意してくれるだろう。