ふと昔覚えた数字がよみがえることがある。
105番地とは、僕の実家の古い住居表示だ。使われていたのは、僕が幼稚園生の頃か、もっと前までかもしれない。人間の煩悩の数といわれる108よりも少ないこの数字をみると、当時の地元の町にいかに民家がすくなかったのかがわかる。
小学生の頃には、住居表示の変更があり、「東2丁目27の13」という、都会風の住所に変わった。当然ながら、この数字の並びも頭に刻まれている。小学校のクラスの住所録に記録されているのは、この住所だ。
ところが、しばらくして、恐らく中学の頃だと思うが、この住所が間違いだったことが発覚するのだ。これは実は隣家の住所だった。実際は「東2丁目27の12」というのが、あたらしく割り振られた本当の住所だったというのだ。
のんびりした時代だったと思う。同じ住所を名乗る家が二軒並んでいるのだから、誰かが気づいてもよさそうなのに。
今はネットという便利なものがあるから、それで検索すると、「東2丁目27-13」という住所が指さすのは、まさに隣人のカワモトさんの家だ。ただ、子どもの頃の刷り込みの力は強力で、僕は今でも、こちらの住所の方に、古い実家での暮らしがあったような親しみを感じている。