大井川通信

大井川あたりの事ども

コロナ感染から一年/入院患者に手を振る

あの激動の一か月から一年が経った。この「事件」のためにたくさんのことを考えたし、これをきっかけに自分で動いたことも多かった。

初心を忘れないために、死線をさまよい治療に苦しんだ病院を訪ねてみる。リハビリの歩行訓練の途中にいつも窓から見下ろしていたコンビニの駐車場に車をとめて、病棟を見上げながら、早朝の病院の周囲を歩いた。

実際に治療を受けたコロナ病棟の窓を目にすると、リアルに思い出すことが多い。その場に立ち会うということは決定的に大切だ。思ってもみない、こんなハプニングもあった。

コンビニの駐車場に戻って見上げると、一般病棟の廊下の突き当りの窓に、かつての僕のように外を見下ろしている患者の姿が見える。遠くの窓だから、実際に入院をした経験でもないと、下界の住人は患者の存在などに気づかないだろう。その患者はすぐに姿を消したが、その二つ上の階の窓に、こちらをじっと見つめるピンクの入院着の年配の女性らしき存在に気づいた。

思わずこちらからも見つめ返すと、突然その患者さんが手を振ってきたのだ。僕も思わず手を振り返して、とっさに激励の意味で、両手で大きく〇の形をつくり、それから二回右手のこぶしを振り上げるガッツポーズをした。

同病相憐れむではないが、お見舞いも許されない今の状況の入院患者がどんな気持ちで窓の外を見下ろしているかが、僕にはわかるような気がしたのだ。彼女の方も、病院に関心をもって見上げている僕の方の事情を、さとってくれたような気がする。元入院患者かあるいは患者の家族か。

まったく見知らぬもの同士の、一回限りの奇妙なコミュニケーションではあったが、このエールの交換に意味がないとは思えないのだ。

 

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