大井川通信

大井川あたりの事ども

へこむ・凹む

以前からちょっと気になっていたことがある。「押す」という言葉がアイドルの応援という場面に転用されてなるほどと思ったように、かなり以前に、ある言葉の転用に納得させられたことがあったのだ。

もう30年以上前で、20代で塾講師をやっていた時だった。講師仲間が、気持ちが落ち込んだりしたときに使う言葉が新鮮で、なるほど文字通りそういうことだなと納得した。その経験が新鮮だったので、そのあと何度も思い出そうとするのだが、その言葉をこれだと思い返して確信をえることができないでいる。

今回、せっかくだからこの疑問に決着をつけよう。いつも思い返すのは、おそらく「へこむ」という言葉だ。つらいことがあって気持ちがペコっとへこんでしまう。うまい表現だし、実態にあっている。

しかしなぜそれが、あの時新鮮な衝撃を受けた言葉だと思えないのか。おそらく、この言葉が今ではあたりまえの日常語になってしまったからだろう。実際、新語(新用法)といえるものなのかさえわからない。

それで、ネットでざっと調べると、今から15年くらいまえの記事で、これが「へこむ」という言葉の比較的最近の用法で「新語」の仲間に入れていいと書いているものを見つけた。それが本当なら30年以上前の僕の耳に新鮮に聞こえてもおかしくないだろう。

「凹む」と表記すれば、まさに気持ちのへこんだ人間の姿そのままの形だ。ここまで調べて、当時の驚きが少しよみがえる気がした。