大井川通信

大井川あたりの事ども

『まだまだ身の下相談にお答えします』 上野千鶴子 2022

朝日新聞身の上相談コーナー連載記事からの三冊目。新聞連載時にも時々目を通していたが、どれも面白く、心に残る。他の相談者のものとは格段にレベルが違う気がする。

やはり男女の関係、家族の関係を主戦場にした理論活動をしつつ、実際にそこで戦ってきた人だからだろう。しかも真面目一方でなく、そこで「遊ぶ」余裕もあるのだ。なにしろ初期のヒット作が『セクシィ・ギャルの大研究』なのだから。

話はまったく変わるが、僕は家ではネットの動画をみて暇つぶしをすることが多い。動画の内容には、そのつどマイブームがある。昨年末くらいからは競馬の動画ばかりをみていたが、そのあとには、ネット掲示板のまとめの動画をよく見るようになった。

実際どういう仕組みなのかわかっていないと思うのだが、とにかく、夫婦や親族、男女の問題などを書き込んだ掲示板での匿名のやりとりを、短時間の動画にまとめるのが流行っているようだ。「釣り」と呼ばれる創作要素もかなり含んでいるようだが、小説や映画顔負けの人生模様を知ることができて面白い。

はじめ夫婦の浮気ものばかり見ていたのだが、報告者の「汚嫁」と「間男」をめぐる攻防と、それを応援する「スレ民」とのやり取りには緊迫感がある。それらを読むと、ごく普通の人たちの体験と思考と文章力に感心することが多い。

ただ、ずっと読んでいて食傷気味になるのは、彼ら彼女らのバックボーンである倫理観があまりに一本調子なところだ。これはネットのコメント全般に見られることだけれども。

ここにきて、ようやく上野に戻る。全国紙の紙面での身の上相談ながら、上野のコメントのふり幅と奥の深さ、自在さは、ネットのそれとは比較にならない。やはり年季が違うということか。