大井川通信

大井川あたりの事ども

ひさしの上は何がある?

読書会のために蕪村の句を選んでいたら、こんな素直な喜びの句が、やはりいいと感じた。バードウォッチャーとして、鳥の句を一つは選びたいというのもあって、それならこれかなと。

 

小鳥来る音うれしさよ板庇(いたびさし) 蕪村

 

小鳥は秋の季語だそうで、なるほどたくさんの小鳥たちが海を渡って野山ににぎわうのは秋の季節だ。俳句の約束事ではそうなのだろうが、野山で暮らす小鳥たちは人家にはめったに近づかない。まして、家屋の庇(ひさし)の上で跳ね回る鳥は、スズメだけのはずだ。

たとえ見慣れたスズメでも、寝覚めにカサコソと窓の上で音をたてる鳥たちに、心浮き立つような思いを感じるのは共感できる。これは伝統的で向日性の抒情だろう。

 

 空気を打つ散漫な羽根音をさせて、鳥が夜の廂(ひさし)に落して行つた物は何だつたらう? 拾ってみれば、ひどく疲労に黒ずんだその鳥であつた。では落して速く翻つて行つた、あれは何だつたろう。 (丸山薫「廂」)

 

僕は高校生の頃から丸山薫が好きだったけれど、この短い散文詩を知ったのは、山本太郎の『詩の作法』の紹介によってだった。山本さんの本からは、現代詩がどんなものかを学んだが、その象徴はこの詩だった気がする。

同じひさしの上の出来事に注目しながら、こちらは多少ブラックで、しかし痛切な祈りをひめた近代的な抒情になっている。