大井川通信

大井川あたりの事ども

こんな夢をみた(安部さんの帰還)

僕が旅行から戻って、真っ先にそのバーに寄ると、安部さんが丸型のおおきなテーブルに座っていた。カウンターには、詩人と称する男がいる。その男が自分をある有名な詩人と比較して話し出すと、安部さんは、辛辣にことごとくその比較が成り立たないと否定してしまう。

よく見ると、テーブルにはこのバーが編集した小冊子がおかれていて、なぜか中身は今晩のここでの会話がすでに書き起こされて、座談会のような記事になっている。安部さんと自称詩人との会話は一見おだやかだが、実際には男が相当頭にきていることが書き足された文面からわかる。

僕はどんなことを話すのだろうか。記事の少し先をみると、僕は数学を話題にしている。僕はそんな話をすることに興味がないので、その場を切り上げることにした。安部さんが少し気分が悪いといっているので、タクシーを呼んであげる。

バーを出て、車道で安部さんをタクシーに乗せると、僕は、バーの周辺の路地のような商店街を歩いてみた。後ろを見ると、僕の知人が女性を連れて楽し気に歩いている。さらに、まるでスターみたいに、八百屋や肉屋の店員さんたちの差し出す手に次々とタッチを始める。ただし、僕は、何か必死すぎてスターらしい余裕がないな、と冷めた目でながめていた。

 

【注釈】

このごろ、いくらでも夢をみる。眠りが浅くて、夜中によく目を覚ますことが原因かもしれない。この夢は、安部さんと実際にブックバーに行った場面が下地になっている。会話があらかじめ小冊子の記事になっているという奇想は、安部さんがテープ起こしをした水平塾座談会の記録からの連想か。路地の商店街は、この地方に多くあった木造の暗い市場のイメージ。最後のスターを気取る知人の顔にはまったく見覚えはなかった。