大井川通信

大井川あたりの事ども

崖っぷちのザリガニ

馬場浦池の水が抜かれた。

何年か前、カイツブリが夏過ぎで子育てを始めたとき、水抜きで小さくなる水面から飛び立てないヒナの姿にドキドキしたことがあった。四羽とも無事に脱出できた年もあったが、可憐な二羽のヒナを小さくなった水たまりに見失ってしまった年もあった。

今年は、春からカイツブリの親鳥が姿を見せなかった。おかげでハラハラすることのないかわり、やはり物足りない。この先、この池にもうカイツブリはこないのではないか、という不安もよぎる。

ため池の水抜きに取り残されるのは、カイツブリのヒナばかりではない。たくさんのカエルやザリガニが毎年その犠牲になっている。それでも彼らは種族として命をつないでいるから不思議だ。

ため池の擁壁には近隣の住宅地から流れ込む雨水の排水口が突き出ているが、そこからチョロチョロと水が落ちるため、真下には小さな水たまりができている。

よく見ると、水たまりには大小のザリガニが何匹かはい回っている。落ちてくる水に逆らって、擁壁をよじ登っているザリガニもいる。擁壁にこびりついた苔を食べているようにも見えるが、もしかしたら、住み家の水が干上がったときの本能的な行動なのかもしれない。

なるほど、水流をさかのぼれば水源に近づくわけだから、生き延びる確率は増すような気がする。けれどもこの人工的な環境では、その努力はむなしいものでしかない。

小動物たちの亡骸をいっぱい抱え込んで、季節は冬へと進んでいく。