大井川通信

大井川あたりの事ども

石崎さん

仕事で福岡県の小郡市に行く。近頃は、出張でも車の運転がおっくうになって、公共交通機関を使うようになったから、駅から目的地までの道を歩くことになった。

街道付近の空き地に大きな石が二つ並んでいて、石のホコラもあり、白い説明板が立っている。それを読むと、こんなことがわかった。

今はあじけない空き地になっているが、以前は大木が茂った鎮守の杜で石の神様をお祭りしていたらしい。二つの石が主役で、ホコラは後付けのようだ。村人がこの場所でオコモリ(お祭り)をしっかりしていたのは戦前まで。戦後それが途絶えてしまったというのは、地元の大井川流域の神様についてもよく聞く話だ。

街角に残る古い石塔や自然石は、たいてい庚申(こうしん)塔だったり、猿田彦だったり何かの名前がついている。この石の神様は「石崎さん」と呼ばれているだけで、他のもっともらしい名前を持たない。その素朴な感じがいい。

古くから農耕が行われていた地域だから、その当時からの信仰をとどめているのではないか、と説明板にあるが、なるほどそんな気がする。

石は、楕円形の立った石と、平たい台のような形の寝た石とがあって、「立石は穢せば祟りがあるといわれて信仰の対象になっており平石は子供達の遊び場になっていた」ということらしく、それでも二つあわせて石崎さんと呼ばれている大らかさがとてもいい。神様とベンチではなく、まつる神様と遊ぶ神様ということなのだろう。

僕は、この石崎さんが好きになった。それで、子どものように平石の神様の上に乗っておどけてみた。たとえ短い距離でも、目的はなくとも、街歩きをするのは素敵なことだ。