大井川通信

大井川あたりの事ども

英勝寺仏殿 神奈川県鎌倉市(禅宗様建築ノート7)

鎌倉では、もう一つ禅宗様仏殿を見る。1636年という江戸初期の建物で、山門や鐘楼などとともに、ごく最近重要文化財に指定されている。

鎌倉唯一の尼寺ということで、歴史的な由緒も興味深く、伽藍も街道沿いにコンパクトにまとまっている。「拝観のしおり」によると、創建当初の堂宇が残っており、建物の特徴的な意匠も、当初からのもののようだ。

仏殿の形式は「方三間もこし付」の本格的な禅宗様仏殿だが、屋根が寄棟造で、銅板葺きの屋根には軒ぞりがなく、直線的にふき下ろされている。意図的な意匠のようだが、これでは頭がもっさりしているようで、外観の飛翔感はでない。

内部の拝観はできないが、周囲のすべての窓が開いていて、内部の様子をじっくり観察することができる。参拝者にはこの開放性はありがたい。

内部の空間構成には見ごたえがあり、母屋の4本の柱を省略しているのは建長寺法堂と同じだが、天井を周囲の組み物が支え、前後に二本の虹梁(はり)がかけ渡されていることで、上部空間に立体感と変化を見せている。小ぶりな仏壇は内陣の後ろに取り付けられて、小規模の堂ながら、石畳の土間に並ぶ列柱が見通せる空間になっている。

内外に装飾も多く、尼寺らしい華やかな仏殿であるように思えた。