大井川通信

大井川あたりの事ども

『おみくじの歌』 平野多恵 2019

詩歌を読む読書会の課題図書。題名を聞いても何のことかわからなかったが、全国各地の神社のおみくじに書かれている和歌を中心にして、おみくじにゆかりの歌を50首集めた解説書になっている。

おみくじには吉凶が書かれているのは間違いないが、和歌があったかどうかになるとあいまいだ。それで、いくつかの神社で実際におみくじをひいてみた。占いなどを信じていない僕は、景品付きのおみくじ以外めったにひくことはなかったのだ。

そうすると、なるほど教訓めいた歌が書かれており、それを神のお告げとしてわかりやすく説明した文書もついている。吉凶の運勢は、おみくじの中の一項目でしかなかったのだ。

この本の中には、宗忠神社のおみくじの歌の紹介もあり、黒住教の経典で調べると、おみくじの歌が教祖のものであることを確認できた。ただ、残念ながら、宗忠の歌の中でもあまり思想的に優れたものではない。あまり深い内容では、人々の生活のわかりやすい指針とはならないのだろう。

ちなみに、この本で紹介された宗忠のおみくじの歌と、宗忠の思想が全面的に押し出された道歌とを紹介する。前者は、日常の処世術レベルで受け取られてしまうだろうが、後者にはあきらかに我々の常識を超えた異様な思想が込められている。ただし二首とも文学性はゼロである。

「浮船に長く乗りたく思うなら心の舵の油断するなよ」

「天照らす神のみ心我が心ふたつなければ死するものなし」

短歌形式は日本人の生活と生活に直結する思考にとってきわめて有効な道具である、という最近の僕の問題意識にかなった本だった。そのうえで、文学的で高度な思想と感情を盛ることもできるのだから、短歌形式というのは本当にたいしたものだ。