大井川通信

大井川あたりの事ども

正福寺千体地蔵堂 東京都東村山市(禅宗様建築ノート4)

東京都内唯一の国宝建造物である正福寺千体地蔵堂を見るために初めて東村山を訪れたのは、たぶん中学生の時だったと思う。身近に禅宗様建築の貴重な遺構があるということから、僕は古建築の中でもとりわけ禅宗様という建築様式のファンとなった。

禅宗様の魅力は、建物正面から見上げたときの独特のフォルムだ。左右に伸びた反りの強い屋根が鳥が両翼を広げたような飛翔感をもたらす。

中学の頃の自分が、このフォルムの魅せられていたのは間違いない。授業でオルゴールを自作したとき、木のふたの彫刻を、禅宗様の輪郭を三つ重ねたデザインにした。残念ながら技量が及ばずに満足な作品にならなくてがっかりした記憶がある。

それから、僕はどれほどの回数、正福寺千体地蔵堂の前に立っただろうか。寺の門前に続く住宅街の細い道が参道のように遠くから堂の姿を垣間見せる。そこをどきどきしながら歩いて近づくのは初めて訪問したときから変わらない。

今回、正福寺の内部公開の日と円覚寺舎利殿の一般公開の日が重なったので、思い立って出かけることにした。実はまだ内部を拝観したことはないのだ。

禅宗様建築のもう一つの魅力は、垂直に伸びるドーム状の内部空間だ。外観が大空へ飛翔するものだとしたら、内部の架構は四方から堂内を駆け上がり天井へ収れんする。

コロナ禍でひさしぶりの地蔵祭りということで、堂の周辺は今まで見たことのないにぎわいだ。順番待ちをして3回拝観して帰ろうとすると、午後3時から最後の1時間は写真撮影タイムだという。おかげでさらにじっくり内部空間を味わうことができた。

精緻に部材をくみ上げた内部架構の集中力はすさまじい。仏壇の背後の二本の柱(来迎柱)の後退のない基本の形式なので、堂内における仏像の中心性(主役感)は強いが、礼拝空間は手狭になり、来迎柱の背後の広い空間がデッドスペース化している。

仏壇の左右に千体地蔵をまつる厨子が並んで壁のように堂内を前後に分けてしまっているので、その感じがいっそう強くなっていた。ここから、様式上、内部空間を広く使う工夫が生まれていくのは納得できる。

三千円で木彫りの小地蔵を購入し、大満足で「聖地」をあとにする。