大井川通信

大井川あたりの事ども

禅宗様仏堂が読経で満たされる(禅宗様建築ノート9)

興国寺仏殿の中で礼拝すると、僧侶からもこし部分(向かって左側の外陣)に並べられた椅子に坐るように促される。千手観音公開日の単なる参拝客で檀家でもないし、祈願の手続きをとったわけでもない。遠慮してもじもじしているうちに、僕一人の立ち合いのもとに僧侶たちの読経が始まってしまった。

僧侶は四人。一人は観音の前に坐る。その斜め後ろに一人がたつ。右側の外陣には太鼓を打つ僧侶。左の外陣の奥には鐘をたたく僧侶。

出だしは般若心経であるのはわかった。四人の読経が狭い禅宗様仏殿に満たされる。足元は固い土間だし、高い天井は平らな鏡天井だ。読経は縦長の内陣の空間で反響し、正面の高い壁(来迎柱にはさまれた来迎壁)の前の厨子の中に立ち尽くす観音像に吸い込まれていく。

太鼓や鐘が読経にリズムをつける。観音の前の僧侶が、経典のじゃばらをアコーディオンのようになびかせて調子をとる。読経の最後に人の名前を読み上げてそれぞれ祈願をしていたから、今回の祈願祭でメインの行事だったのだろう。貴重な読経の機会に立ち会えたのは幸運だったと喜ぶ。