大井川通信

大井川あたりの事ども

カラスと会話する(51日目)

いきなりコート姿の長身の男がカラスのたまり場の真ん中に現れて、奇妙な鳴きまねを始めて、カラスたちが混乱して逃げ惑う。これでは、まるでカラスをいじめに公園に行っているみたいだ。かんじんのカンタロウにも嫌われてしまったかもしれない。

そろそろやり方を変えなければいけない、と考えながら、半ば義務のように寒空の公園に顔を出した。

今日は鳴きまねをせずに、あたりの様子をうかがう。しかしカラスたちには不審人物の烙印を押されていると見えて、多くのカラスが飛び立って警戒の様子を見せる。その時、飛んできて比較的近くの低い枝にとまったカラスに気づいた。見た目も小ぶりでカンタロウぽく見える。

これだけなら偶然かもしれない。しかし、僕が身体をカラスに向けて数歩近づいてもカラスは逃げない。これでほぼ確定だ。たいていのカラスは、こちらが身体の向きを変えたり、まして近づくそぶりを見せると、まちがいなく飛び立ってしてしまう。カンタロウは、普通のカラスよりずっと近くに寄っても大丈夫なのだ。

大勢の中では、カンタロウはニンゲンに声をかけられないのをわかっているので、僕はカンタロウに向けて「かんちゃん、かんちゃん」となんども呼びかけた。これはニンゲンの言葉を覚えてもらうために以前からしているが、今日は、首を回したり、腰を回したり少し奇妙な動き(ストレッチもかねて)を加えてみた。カラスはニンゲンの顔を覚えるというが、こうすればいっそう特徴が記憶しやすくなるだろう。

しばらくして、カンタロウは枝を移る。この時、近くの木に飛び移って、僕が追いかけられるようにしてくるのが、カンタロウ・マナーだ。群れから少し離れたためか、カンタロウは、カア―と一声小さな声を出す。すかさず僕もカアーと繰り返す。この鳴きまね合戦までくると、カンタロウ・スペシャルとしかいいようがない。

枝を何度か移って追いかけっこをしたあと、僕は池の周囲を離れて、小高い林にまで歩いて行った。ここで正拳突きなどの運動をするのが僕の習慣だ。すると、林の中をスーッと低く飛んで近くの枝にとまったカラスがいる。まさかと思ったがカンタロウだった。

これは初めての経験だ。池の周辺で十分やり取りをしたあとで、林の中まで追いかけてきてまたやり取りできたことはない。今度は、カンタロウがが二、三回短く鳴くから、その鳴きまねを繰り返して遊んだ。