大井川通信

大井川あたりの事ども

『月明学校』とクルソン岩

白髪岳や『月明学校』の舞台の分校に興味をもったのは、その近くの山中にクルソン峡があり、クルソン神社やクルソン岩などのクルソン信仰の遺物があるからだった。だから、『月明学校』の中に「狗留孫(くるそん)神社」の名前が出てきたときはうれしかった。

慶子先生と子どもたちは、鉱物採集のために朝早く出発する。子どもたちは、金を見つけようと張り切っている。狗留孫神社の近くにヒ素が出ると聞いていたので、そこを目指すことにする。

「ずっと登ると、松の枝ごしに、白蟻の塔のように立つ、灰色の泥溶岩の石柱が見えた。『あれに登ったら怖かろうたい』猪野山が、肩をすくめて上を見ながらいった。・・・『登れるんですって。登った人があるそうよ』私が話すと、みんな感心したような声を出して、あらためて高い岩を見た」

今はネットという便利なものがあるから、クルソン神社の詳細な訪問記録を読むことができるし、登山の様子の動画まで見ることができる。著者はクルソン神社への行程を詳しく書いているから、子どもたちと見上げた石柱が、クルソン岩であることは間違いない。いろいろな形の岩を見慣れているはずの山の子どもたちにとってさえ、思わず足を止めて見上げてしまうような形状の奇岩なのだろう。

その驚きは古代の人たちにとっても同じだったはずだ。この立石を巨大な仏(クルソン仏)に見立てて、信仰の対象にしたことは自然な流れだったのだろう。

「それから、ドームのようになった大きな石の洞穴を通り抜けると、視野が開け、お宮の建っている、岩と松ばかりの中腹に着いた。子供たちは、神秘な山霊への素朴な信仰から、勝手に榊などを折ってきて、お宮の供えた。松風が高く、歌うように吹いていく。幾重にも重り合う山々は、日光の照りかげりにも、細かな色の変化を見せた。岩の上にたって風に吹かれていると、心の底までさわやかになった。下のトロッコ道を、マッチ箱程の機関車が走っていくのが見えた」

自然との交歓が素直にえがかれた美しい文章。