大井川通信

大井川あたりの事ども

『輪廻の蛇』 ロバート・A・ハインライン 1959

ハヤカワ文庫での邦訳は、1982年の出版。昨年、映画の原作となった表題作の短編だけを読んでいたが、今回は全体を読了。その前に読んだディックの短編集の出来があまりよくなかったためか、それと比較して、一篇一篇の完成度が高く、バラエティもあって読みごたえがあった。

全体の半分強を占める中編の『ジョナサン・ホーグ氏の不愉快な職業』は、探偵への奇妙な依頼が発端になるミステリー仕立てのホラーで、日常の中に紛れ込む不条理や異界の描き方が秀逸だし、神と悪魔みたいな類型的な説明に落ち込むかに見せて、謎と余韻の残る結末にしているのもよい。

短編『かれら』は、いかにも精神医学的ないし独我論的な症例を扱うように見せて、SF的なオチをつけていて鮮やかだ。短い作品ながら、哲学的な含蓄も深い。

そのほか、コミカルだったり、ロマンチックだったりする作品もあって楽しめるが、なんといっても再読した『輪廻の蛇』の完成度が高かった。今回は映画と離れて、わずか30頁弱の短編作品として読んだわけだが、十分鑑賞に値する凝集力を秘めていた。

ハインライン作品をもっと読んでみたいと思わせる一冊だった。

 

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