大井川通信

大井川あたりの事ども

多動な男

通勤電車は初めから座れることはめったにないが、たまに途中の駅で座れることもある。座席配置は一定ではなく、東京みたいな長いベンチの向かい合わせの車両もあれば、ボックスタイプの座席の車両もある。

今朝、ドアの脇の通路で、ボックス席の背に身体を持たせるように立っていたら、背中を向けて座っている若い乗客が、不意に背中をどしんと背もたれにたたきつけてきたので、その振動に驚いた。

何かにいらだっているような仕草だ。それですぐに気づいた。僕が背もたれに身を乗り出して無意識に身体を動かしているのが、彼の安眠を妨害していたのだろう。新幹線の座席もそうだけれども、意外と背もたれに触れる背後の乗客の動きは、ダイレクトに伝わってしまう。

僕は申し訳なく思って、それ以降、座席の背に触れないように立ち続けたので、電車を降りた後、すっかり身体が凝ってしまったのに気が付いた。

僕は落ち着きがなくて、ついつい身体を頻繁に動かしてしまうところがある。特に考え事をしている時はそうだ。夢中になって本を読んでいる時も、その傾向があるかもしれない。

もう20年くらい前になると思うが、早朝の相席で、隣の乗客(当時の僕よりずっと年配の男だった)から、いきなり叱責されたことがあった。僕が身体を動かすから、落ち着いて眠れないということだったと思う。

僕は器の小さな男だから、表面上は穏当に謝っても、内心はグラグラして、何らかの復讐を想像したりした。ここは、あなたの自室のベッドじゃないんだ。多少の迷惑は許容するのが大人だろう。あとをつけて職場を突き止めて上司に文句をいってやろうか。

20年たっても人間の出来ていない僕は、同じような復讐劇を夢想する。若いくせに座席を占領して、周囲の立っている人間のきもちがわからないのか。真上の網棚から本の詰まったリュックをおろすタイミングで、頭に直撃をくらわしてやろうか。

もちろん、小心者の僕にそんなことができるわけがない。

僕は、多動で、かつ器の小さな男だ。

 

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