大井川通信

大井川あたりの事ども

『魔術師』 江戸川乱歩 1931

肩の力を抜いて、読書を楽しみたいと思って、乱歩の「通俗長編」の一冊を手にとった。創元推理文庫の乱歩シリーズの一冊。このシリーズは、雑誌連載当時の挿絵がふんだんに載せられていて、本文だけの文庫本とは印象が全く違う。昭和初期の挿絵には時代の空気がたっぷり含まれていて、読み手の想像力を限定してしまうところがあるが、その分負荷なく読み進めることができる。

ところが、前回読んだ『孤島の鬼』ほど小説としての深みがない。シリーズの中で本格ミステリに分類される『孤島の鬼』とは違い、これはスリラーにジャンル分けされている。ただ読者を楽しませるための「イメージの暴走」はとどまるところを知らずに、飽きたり、苦痛になったりすることなく、読み終えることはできた。

エログロ度やハチャメチャ度は高く、なじみのある少年ものの方が内容表現面で穏当なのはもちろん、ストーリーに説得力があるような気がする。かなり重要な二つの場面(明智の監禁脱出とクライマックスの犯罪現場の発見)で、明智小五郎が賊の娘の助力に全面的に頼っているのは、どうにも物足りない。

全20巻のシリーズの内、4冊を読み終えた。全集までは手が出ないと思うが、せめてこのシリーズくらいは完読したい。

 

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