大井川通信

大井川あたりの事ども

影武者カンタロウ

依然として、都市公園にはカラスが少ない状況が続いている。昼休み公園内を歩き回っても、カンタロウどころかそもそもカラスがいない。ただ、僕はそれでいいと思っている。

この寒空の中で、人から嫌われているカラスが生き延びるのは大変だ。僕も長年バードウォッチャーをしているのに、カラスに好感をもっていなかった。トビやミサゴがカラスに追い回されると、タカなんだからしっかりしろと相手方を応援し、巣を襲ったカラスに対してツバメが集団で反撃すると、その勇気に賞賛の拍手を送った。住宅街のゴミ袋をあさろうとするカラスがいれば追い払った。

カンタロウと出会って初めてカラスの立場から見返してみると、大きな身体のカラスが群れをなして空腹を満たし、20年の寿命を全うするのは本当に大変だ。だれもカラスにエサをやろうとする人はいない。みんなが何とかカラスを飢え死にさせようと工夫をしていて、それが人間の社会では正義なのだ。

カラスたちがどんな生活パターンをとるかは、生き延びるためのぎりぎりの選択であるに違いない。カンタロウにこの公園に残ってほしいと思う権利は僕にはない。あの大寒波の日に、吹雪の中で凍えながら鳴きまねのやり取りができたのが、カンタロウと僕とのクライマックスであっても仕方ないと思っていた。

仕事の帰りがけ、公園のいつもの林に、カラスが一羽とまっている。近づいても、しばらく枝の下にいても、木の皮をつついたりして逃げようとしない(判定第1条件クリアー)。やがて飛び立った先の枝は近くというわけではなかったが、歩いて追いつけるくらいの距離だったし、その木の下にいっても逃げようとしない。

カンタロウ判定の第2条件は、なんとかぎりぎりクリアーといったところか。しかし鳴きまねなどの自己アピール(判定の最終条件)をやりそうにはない。

ここでふと、重大なことに気づく。おでこが扁平で小柄なこのカラスは、ハシボソガラスじゃないか。カンタロウは、ハシブトガラス。バードウオッチャーの端くれとして、さすがにカラスの種類を間違えることないと思ってきたが、なんだか自信がなくなってきた。

判定の第2条件までクリアーするこの人懐こいカラスが、今までの「カンタロウ候補」の中にまじっていてもおかしくない。もしかしたら、カンタロウのこんな影武者は、複数いるのかもしれない。ただし、出会ったその日から僕としつこく鳴きまね合戦を展開したハシブトガラスの本物のカンタロウが、ただの一羽しか存在していないことも間違いないだろう。

さすが大物カンタロウ。カンタロウにはしっかり影武者が存在していたのだ。