大井川通信

大井川あたりの事ども

情報弱者の憂鬱

通勤電車の中では、乗客のほとんどはスマホに目を落としている。かつては大部分の人が本を読んでいて、それが日本人の真面目さや勤勉さの象徴みたいに言われていたと思うのだが、すっかり様変わりしてしまった。もちろん電子書籍を読んでいる人もいるだろうが、ゲームをしたり動画やSNSをのぞいている人が大部分のようだ。

高校生が学校指定の参考書をめくっている姿だけは僕の子どもの頃と同じでほっとする。ただ、本当に今時まれに隣の人が新聞を取り出したりすると、その空間占有率の高さと新聞紙を扱う騒がしさで、こればかりはスマホのコンパクトさとスマートさとに軍配をあげたくなる。

紙の本を読んでいる少数派は、自分を含めてやはり年配の人が多い。もしかしたら、これからは紙の本を取り出すことが時代遅れで、引け目を感じるような時代になるのかもしれない。

語学の勉強を再開しようと思うと、苦手のヒアリング強化のために、多くの若者が付けているワイヤレスイヤホンが気になってくる。しかし、語学の音声教材については、いまだにCDのイメージしかわかない情弱からすると、音声データをワイヤレスイヤホンで受ける仕組みが皆目わからない。研究しないと。

職場でFAXをしようとしたら、関係先の短縮番号が登録されていない。意外に思って担当者に聞くと、近頃機器を更新して登録を設定していないままだという。考えてみれば、今の仕事は、全てメールのやりとりですますことができるのだ。久しぶりの事務の現場で、化石的な発想が顔をのぞかせてしまったのだろう。

実は、ラインをしたことがない。ラインってなんだ。今まで加わる機会はあったのだが、なんとなく尻込みしてきた。今回とあるグループに加わったら、連絡手段としてラインが必須だという。いろいろ理由があって、一回廃用したスマホをだましだまし使っている状態だから、これを機会に情弱卒業のために、スマホの機種変更をしようと思いつく。

知らない知識が飛び交う中、長時間拘束される携帯ショップは、昔から大嫌いだ。重い腰を上げてでかけると、手続きは思ったより簡単だった。それに、昔はあふれかえっていた若者がいない。周囲は高齢者ばかり。スマホがこれだけ普及し、購入のルートが多様化している中で、実店舗に頼るのは情報弱者の高齢者が主になっているのだろう。その分手続きはわかりやすくなっているようで、ありがたい。

若い女性店員相手に、情報弱者の自虐ネタを得意げに振り回し、あっさり最新のiPhoneを手に入れて、意気揚々と帰ってくる。