大井川通信

大井川あたりの事ども

カンタロウの恋人

昼休みに公園を一周する日課は続けていたが、カラスに出会う機会はめったになくなっていた。今朝は、久しぶりに公園がカラスの声で騒がしく、例のジャージ姿のお年寄りもそれにつられてカラスみたいな奇声を発している。

昼休み、いつもの小山の林にむかって歩くと、先回りするカラスの姿が。近づくと少し離れた高い枝に飛び移ったが、僕が真下に歩いて近づいても逃げずに小さく鳴き始める。

4回カアと鳴くと、僕も4回カアと鳴きまねする。1回、3回、2回という風に不規則に回数を変えるのが、カンタロウ流だ。

久しぶりに鳴きまね合戦をしていると、カンタロウの鳴き声に反応したのか、別のカラスが飛んできてカンタロウの近くにとまる。ちょっと小柄で、なんとなくカンタロウにつきまとっている雰囲気がある。

くちばしをカンタロウの首やのどのあたりに擦りつけたりしていて、カンタロウもまんざらではなさそうだ。カンタロウは他の仲間がいるときは、人間である僕とコミュニケーションをとろうとはしない。まして、恋人がいるならそんなかっこ悪いふるまいはできないだろう。

カンタロウは、恋人カラスの近くで何度か枝移りしていたが、いつの間にか細長い枯れ枝を一本くちばしにくわえている。これから愛の巣でも作るつもりなのか。気が早いぞ、カンタロウ。しかしカンタロウは、その長い枯れ枝を器用に折って、その半分を僕の足元に落とした。

とっておけということなのだろうか。僕はあわててその小枝をひろい、胸のポケットにおさめた。