大井川通信

大井川あたりの事ども

北新地ビル放火殺人事件(事件の現場13)

2021年12月17日に、大阪駅近くの大通り沿いのクリニック(心療内科・精神科)が放火されて27人が死亡した事件が起きた。犯人は、このクリニックに通院していた患者らしく、本人も死亡している。のちの報道では、亡くなった若い院長の人柄をしのぶ患者さんたちの声があった。院長は、働く中でメンタルに不調をきたした人たちの社会復帰に尽力していたという。

新大阪駅前に泊まって数時間の空時間ができたので、梅田まで出て大通りを歩いて現場を訪ねてみたが、想像以上の繁華街だ。巨大なビルが立ち並ぶ中で、6階建ての小さなビルは目立たず、気づかずに通り越してしまうところだった。

火元になった4階の窓はボードですっかりふさがれており、火災の痕跡はほとんど残されていないが、ビル自体は閉鎖されている。「働く人のクリニック」という看板だけはもとのままで、停止した時間をこえて何かを訴えているようだ。

小さなビルの小さな医院でのあまりに不幸な出来事をよそに、大都会はその巨大な歩みを続けている。ヒューマンスケールをはるかに超えた時空間に押しつぶされた人々の悲鳴のようなものを聞いた気がした。

現場からほど近い、巨大なビルの陰に、堂島薬師堂があった。球状に鏡を張られた外観のホコラが水面に浮かぶという近未来的な姿だが、道行く人が祈る姿は昔のままだ。どのように形を変えようとも、昔からの祈りの場所が維持されているというのはありがたい。僕も球形の薬師堂で頭を下げて、事件で亡くなった方たちの冥福を祈った。