大井川通信

大井川あたりの事ども

銀河鉄道に乗って

先月、漫画家の松本零士(1938-2023)が亡くなった。有名人ではあるが、僕にはそこまで思い入れはない。連載を読んだのは、子どもの頃の『おとこおいどん』ぐらいだったような気がする。

その4畳半ものといわれる作品の原型となるような、とても切ないSF短編を読んだ記憶があるが、今は手元にはない。その独特のふわふわとした絵柄とともに、繊細で感傷的な作品を描く人というイメージがある。

後年は、宇宙戦艦ヤマトの権利を主張したり、自分の漫画のセリフの盗作騒動を起こしたりと、あまり良い印象はない。85歳というから、天寿を全うしたとはいえるだろう。

ブックカフェで、たまたま手に取った列車を舞台にした漫画のアンソロジーに、松本零士の初期の短編が収録されていた。

題して『銀河鉄道の夜』。宮沢賢治の童話の翻案のようだ。

少年は、若くして亡くなった女友達と、星空を見上げる草原で幻想的に逢瀬を重ねる。少年に新しいガールフレンドと出会いがあって、女友達が星空に帰っていく時に、彼女は、おじいさんになったら銀河鉄道に乗って私に会いに来て、私は今の姿でいるから、という別れの言葉を残す。

若き日の松本零士の憧れと感傷の結晶のような作品だ。

年老いて死んだ彼は、銀河鉄道に乗って、無事彼女に会うことができただろうか。