大井川通信

大井川あたりの事ども

プチ大井川歩き

このところ足に違和感があって、用心して歩くのをひかえている。右ひざのかすかな痛みが続くから、それをかばって不自然な歩き方になってしまう。こうなると大井川歩きもご無沙汰になる。

通勤の電車の窓から、駅の近くの住宅街に気になるものを見つけた。背後の里山に登っていく小さな石段なのだが、しっかり整備されてあって神社かほこらの参道みたいだ。山荘と命名された新しいアパートの隣だから、土地の整備によってあらたに見えるようになったものかもしれない。

灯台下暗し。こんな身近に未見の社があるのは驚きであり、そうでなくても里山にアクセスする通路なのかもしれない。足を延ばすことができないのが、少しはがゆかった。読書会の準備で仕事を早く切り上げた日に、足の調子も良さそうだから、ようやく駅から遠回りをして訪ねることにした。

まずは山荘をめざす。自転車に外国人の若い女性が何人か追い越していく。想像通り、山荘は彼女らの寮なのだろう。山荘の手前にはガールフレンドを待つ若い男性の車が駐車していて、目当ての物件を探す僕の不審な行動に、彼の方から言葉をかけてくれた。外国人風のまじめそうな青年で、何か御用ですか、と。

意外なことに、石段は、民家の玄関らしきものの少し先にあった。その脇の空き地で草刈りをしている年配の男性がいたので、入っていいものかどうか声をかけた。

ここの上は、〇〇さんの住宅だよ、とおじさん。〇〇会社の重役をしていた人だという。木々に覆われているが、一段上にさらに民家があるのだろう。僕がこのあたりの歴史を調べていると説明したためだろうか、おじさんはお寺の名前を口にする。

どうやらこの土地の上の方に、古いお寺のあとがあるらしい。筑前風土記に書いてあるよと、古書の名前をあげたのには驚いた。

家に戻ってから地誌を調べると、確かに彼の教えてくれたお寺がのっている。照實山法蔵寺。浄土宗西山派。明治の初めに廃寺になったのは、廃仏毀釈と関連があるのだろうか。住居地図を広げると、元重役という人の家とこのおじさんの家もわかった。

旧家の人のようだから、平井山の狸掘りの坑口のことを知っているかもしれない。こんど訪ねて聞いてみよう。短時間の探索だったけれど、久しぶりに大井川歩きの興奮を味わえた。