大井川通信

大井川あたりの事ども

『井坂洋子詩集』 ハルキ文庫 2024

井坂洋子(1949-)は、僕が学生時代、現代詩を読み始めた頃の新進の女性詩人だった。ブルーの薄い詩集『朝礼』はいつのまにか手放してしまったから、特別に気に入った詩はなかったような気がする。なんとなく通じるけれどピンとこない、くらいの印象だったろうか。

なつかしい名前を文庫本の新刊で見かけたので、思わず購入した。詩が売れないこの国で、文庫化される現代詩人などまれである。あのあともずっと書き続けていたのだろう。パラパラとめくると、初期の詩もふくめて、以前よりわかるような気がする。そのなかでも、目を見張ったのが、次の詩。

 

城下をみおろす/疲れた女王の目を借りて/双眼鏡で/ターミナルやめぬき通りを眺める/目鼻立ちもわからない人たちが/あるいはたむろし/あるいは一定の方向に流れていくが/それぞれが/思いを隈(くま)どるように/別個の肉体をもつのがみえてくる/広場のベンチにもたれ/本を読んでいる者と/その前を行きすぎる者との/時間はついにつながらず/そのへだたりは/天体の運行にも似ている/人は太陽をめぐる惑星のように/同じ何かを中心にして/円周上を動いているだけなのかもしれない/それが何かわからなくて/あんなに孤独にみえるのかもしれない (「展望台にて」)