大井川通信

大井川あたりの事ども

歯車

急に視界の中心が盲点のように見にくくなり、視野の左側上部でさざなみが立つようにチラチラしだすが、今回はそれが広がらないうちに収まった。

閃輝暗点だろう。芥川龍之介が自殺の年に『歯車』で描いた症状だ。

ただし僕の場合、どちらの目にも同じ形で、歯車は回っている。

曜変

国宝曜変天目の再現にいどむ陶芸家の姿が忘れがたい。

テレビドキュメンタリーで、彼は、苦しくて仕方がない、とつぶやく。

それは、彼にとって作陶が目的でなく手段になってしまっているからだろう。完全な曜変の輝きを捕まえるための。

 

初庚申

勤め帰り1時間ばかり並んで、猿田彦神社にお参りした。

博多の古い町並みで戸口によく見かける、小さな猿面を授かる。

さる、だから災難が去る。

博多っ子の妻には、懐かしくも頼もしい門番となるはずだ。

 

 

 

 

岡庭昇

学生の頃、市立図書館で岡庭昇の朔太郎論を偶然手にとって、衝撃を受けた。 

等身大の言葉が世界とわたり合う力をもつ、と知って。

以来、言葉への密かな信仰を持ち続けている。