大井川通信

大井川あたりの事ども

詩と詩論

寺山修司の三首

詩歌を読む読書会では、課題図書の中から三作品を選び、順番にそれを披露していくことになる。他の参加者も、それについてコメントを求められるから、参加が5人でも、合計15作品について、すべて自分なりの批評を加えることになる。これにはかなり鍛えられる…

カミソリの下

詩歌を読む読書会で、寺山修司の歌集をあつかう。昨年末ベンヤミンからの連想で寺山修司のエッセイを読み返してみたり、競馬のマイブームにより寺山の競馬論に手を出したりしていたところだったので、ベストのタイミングだった。 まずは、ずいぶん昔からもっ…

対訳『ディキンソン詩集』 アメリカ詩人選(3) 1998

今回の詩歌を読む読書会は、この岩波文庫が課題図書。僕は翻訳詩が苦手で、ほとんど読んだことがないし、たまに見たとしてもそこに「詩」を感じたことがない。 今回外国の詩が課題図書に決まり、困ったことだと思いながら読み出したら、意外にも面白かった。…

「春の寺」 室生犀星 1914

うつくしきみ寺なり/み寺にさくられうらんたれば/うぐひすしたたり/さくら樹にすずめら交(さか)り/かんかんと鐘鳴りてすずろなり/かんかんと鐘なりてさかんなれば/をとめらひそやかに/ちちははのなすことをして遊ぶなり/門もくれなゐ炎炎と/うつ…

詩集『動詞』から(続き)

高橋睦郎(1937~)の動詞の連作は、たぶん学生の頃、その一部が雑誌のバックナンバーに掲載されているのを見て知ったのだと思う。後に現代詩文庫のなかに、詩集の一部が収録されているのを見つけて、読み返した。 昨日は、哲学的な問いの結晶みたいな作品を…

『動詞Ⅰ、Ⅱ』高橋睦郎 1974、1978

念願だった二冊の詩集をようやく手に入れることができた。ネットで簡単に状態のいい古書を見つけたというわけだが、やはりうれしい。 ざっと目を通してみたが、やはり現代詩なので、即座にどれもこれもいいと感じるわけではない(ちょっと残念)。でも、きっ…

うしろすがたのしぐれてゆくか

姉が定年退職後にちょうどコロナ禍にぶつかってしまい、家籠りをしている間に、山頭火のファンになっていた。山頭火といえば、父親が好きだったことがあり、子どもの頃父親から教わった記憶がある。 父親は僕と同じ様に熱しやすく冷めやすい人だったから、山…

高良留美子の詩

今年も多くの著名の人が亡くなった。記事にしたいと思いながら、書けなかった人も多い。つい先日、新聞で詩人の高良留美子(1932-2021)の訃報に接した。高良留美子は、大学時代、詩をよく読んでいたときに愛読していた詩人の一人だ。現代詩文庫の解説で岡…

キャベツ論 ― 齋藤秀三郎さんのキャベツに寄せて

キャベツをくるむ葉の一枚、一枚の、支脈と隆起がつくりだす無限の複雑さ。 キャベツの葉がくるむキャベツは、しかし、無数のキャベツの葉によって構成されているから、キャベツの実体とは、実は、当のキャベツがくるむキャベツの葉そのものである。 一枚一…

漢詩を読む

このところ読書会は、毎月の小説を読む読書会と、詩歌を読む読書会、それから隔月の評論(哲学・思想)を読む読書会に参加している。それと読書会ではないが、毎月の吉田さんとテーマを決めた勉強会でも書物が話題になることが多い。 小説を読む会は3年間、…

露天風呂の祈り

退院明けには湯治と思って、何回か続けて近所の温泉に行ったが、長続きはしなかった。気分転換をしようと、およそ4カ月ぶりに温泉に入る。 平日の日中だから、それほど混んではいない。広い野外のスペースがあって、そこにタイプの違う露天風呂が並んでいる…

田村隆一の詩を読む

いつも参加している詩歌を読む読書会で、田村隆一の詩集が課題図書になった。 田村隆一(1923-1998)は、戦後派の詩人の中でもとりわけ好きな詩人である。現代詩文庫も三冊買いそろえ、初期の名作だけでなく後年の作品にまである程度目を通している。僕にと…

『鮎川信夫詩集』 現代詩文庫 1968

久しぶりに詩を読む読書会に参加。 鮎川信夫は、荒地の有名詩人だが、若い時にそれほど熱心に読んではいなかったので、いい機会だと思って通読する。 ただ、結局、自分にとって特別に好きな一篇を見つけることができなかった。その特別な一篇を見つけられた…

『郷原宏詩集』 新・日本現代詩文庫 2013

郷原宏(1942-)は、若いころに、旺文社文庫の『立原道造詩集』や『八木重吉詩集』の解説者として親しんでいた。近年では、お気に入りのアンソロジー『ふと口ずさみたくなる日本の名詩』の選者として的確な批評の言葉に感心させられた。詩は、大昔、探偵を…

『二十億光年の孤独』を読む

谷川俊太郎(1931-)の名前を新聞などで見ると、その記事や作品から目をそらすのが習慣になっていた。詩集も何冊かもっていて、気に入った作品がないわけではないのだが、詩人といえば谷川俊太郎を出しておけばいい、あるいは、谷川の詩句ならなんでもあり…

「秋の西行」と「芭蕉のモチーフ」

加藤介春(1885-1946)は地元ゆかりの詩人で、たまたま古書店で見かけた『加藤介春全詩集』(1969)を手に入れた。戦前の詩壇ではそれなりの注目を受け、博多では新聞社で夢野久作の上司だったりもしたらしい。没後かなり経ってからの出版で、実際には代表…

北風に人細り行き曲がり消え

『覚えておきたい虚子の名句200』から。 どうしても教科書やアンソロジーで知っていた句ばかりが目についてしまうのは、名句としてのパワーと味わってきた経験の蓄積があるから、仕方ないのだろう。 その中で、初読ながら、ガツンとやられた句。 北風の中を…

虚子名句二題

一年半ばかり前、日本近代文学会の企画展で、近代詩人たちの自作朗読を聞く機会があった。急ぎ足での訪問だったので、じっくりとは聞けなかったが、やはり朔太郎の声には感激した。初老のやんちゃなオジサン風なのがいかにも朔太郎らしかった。 三好達治の「…

金亀子(こがねむし)擲(なげう)つ闇の深さかな

読書会で高浜虚子の句集を読む。やはり人口に膾炙した名句のいくつかに引き付けられる。教科書やアンソロジーで親しんできた付き合いの深さが、句の理解と関係してくるのかもしれない。その中でも、今回は、この一句が僕の中では圧倒的だった。漢字が難しく…

『厄除け詩集』 井伏鱒二 1977

詩歌の読書会で読む。この課題図書を知らされた時、詩の専門家でない文士の詩集なんてと、やや期待外れに思う気持ちもあった。でもこの薄く難しいところのない詩集を実際に読んでみて、出会えてよかったと思えたし、今後愛読していくだろうと感じた。 自分の…

「わが人に与ふる哀歌」 伊東静雄 1934

太陽は美しく輝き/あるひは 太陽の美しく輝くことを希ひ/手をかたくくみあはせ/しづかに私たちは歩いて行つた/かく誘ふものの何であらうとも/私たちの内(うち)の/誘はるる清らかさを私は信ずる/無縁のひとはたとへ/鳥々は恒(つね)に変らず鳴き/…

佐々木信綱の歌

詩歌を読む読書会で、佐々木信綱(1872-1963)の短歌のアンソロジーを読む。僕が選んだ三首は以下のとおり。 ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲 夜更けたる千駄木の通り声高に左千夫寛かたり啄木黙々と 白雲は空に浮べり谷川の石みな石のおの…

すべての到着したものは此処に滞在し、古くから在るものはいよいよ処を得るでせう。

詩は、名作のアンソロジーで読むのが一番いい。特定の詩人の詩集では、読み手にとって当たりはずれがどうしても多くなる。専門的な読み手ならそれでもいいかもしれないが、一般の読者にはストレスが大きすぎて、本を投げ出すことになってしまう。 郷原宏が編…

萩原朔太郎「虎」1934

虎なり/曠茫(コウボウ)として巨象の如く/百貨店上屋階の檻に眠れど/汝はもと機械に非ず/牙歯(キバ)もて肉を食ひ裂くとも/いかんぞ人間の物理を知らむ。/見よ 穹窿(キュウリュウ)に煤煙ながれ/工場区街の屋根屋根より/悲しき汽笛は響き渡る。…

翻訳詩を読む

読書会の課題図書で、ボードレールの『悪の華』(再版 1861)の安藤元雄訳を読む。僕はもともと翻訳された詩というのは、まがいもののような気がしてあまり読む気がおきなかった。 若き芥川が、「人生は一行のボードレールにも若かない」とつぶやいた頃は、…

通りすがりの女に

朝からコメダ珈琲で、ボードレールの『悪の華』をしこしこと読む。この訳詩集の中に、「通りすがりの女(ひと)に」というタイトルの、こんな詩があった。 街中で、一瞬、喪服姿の美しい女性とすれちがう。彼女の瞳に、「魂を奪うやさしさ」と「いのちを奪う…

クリスマスの朗報

7月に倒れて長期に療養していた安部さんの意識が半年ぶりに戻ったという連絡を受ける。車椅子に乗り、筆談ができるまでに回復しているという。特別にお見舞いを許された人のことをきちっと認識し、漢字も書けているという。 ただ、安部さんの伝えたい内容が…

芭蕉と「海をながれる河」

暑き日を海に入れたり最上川 おくのほそ道ネタをもう一つ。 これも有名な句だが、読書会で読んだ入門書には、「暑き日」は暑い一日の意で、暑い太陽の意にはとらない、という解説がついている。しかし、暑い一日を最上川が海に流している、ということは理屈…

芭蕉と「流域思考」

読書会のために、おくのほそ道をざっと通読する。教科書などでさわりの部分を読み込んだりしたが、この有名な古典の全貌に触れたのは初めてで、達成感は大きい。 何より、どういう旅だったのかその内容がよく分かった。次に芭蕉(1644-1694)の人となりがわ…

『一篇の詩に出会った話』 Pipoo編 2020

本当は図書館が苦手だ。図書館の本と上手につきあうことができない。家には購入して読んでない本がたくさんある。たまに図書館で借りても、たいていは読まずに返すばかりだったり、たまに読んでもそれが良くて結局買ってしまったり。 本好きなくせに、そもそ…