大井川通信

大井川あたりの事ども

2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

いじめっ子と妻(その1)

風邪で体調が悪く昼間から寝ていると、妻が買い物から帰ってくる。少し興奮して、小学生に怒ってやったと言っている。 話を聞くと、小学3,4年生くらいのグループが下校中に、ある男の子が、一人の子に対して、「お前を今度から〇〇と呼んでやる」としきり…

こんな夢をみた(戦闘機)

正体不明の風邪に苦しんで、職場を休み、まる一日横になっているとき見た(悪)夢。 年末。職場ではあわただしく仕事をしている。僕の手元の分厚いノートには、仕事上の重要なメモが書かれているらしく、これで来年は頑張ろうと意気込んでいる。 独身の頃な…

『ビルマ敗戦行記』 荒木進 1982

亡くなった父の蔵書には、文学書のほか、昭和史や戦争に関する記録が目立つ。実家をたたむので、僕も思い入れのある詩集などを持ち帰っていたのだが、今回ちょうど吉本論を読んでいたせいだろうか、戦争体験の手記が気になって、何冊かもちかえってみた。こ…

「塩を編む」 渭東節江 (糸島国際芸術祭2018)

一年前に、八幡の古い木造市場を舞台に行われた現代美術展で、渭東さんの作品を観た。築後70年が経つ市場は、そのままで人々の歴史がしみ込んだ魅力的な環境だ。美術家たちは、その雑多なイメージを上手く取り込んだり、お店の歴史を引用したりしながら、…

「つりびとのゆめ」 鈴木淳 (糸島国際芸術祭2018)

大井川歩きを始めてから、身近な里山の中へ足を伸ばすようになった。目標は、山頂にまつられたホコラや古墳などである。足を踏み入れて、想像したこともない異世界が身近にあることに驚いた。そもそも里山の入り口はわかりにくいし、正式な山道でもないから…

父親と吉本隆明

ある吉本論について、吉本を持ち上げるばかりで、吉本についての全体的で総合的な認識をつくっていない、それは吉本の精神にかなっていないのではないか、と批判を書いた。僕自身たいした読者ではないが、長く吉本が気にかかってきた者として、自分なりの吉…

LGBT(性的少数者)をめぐって

職場でLGBTについての研修会があった。こうした場で当時者の話を聞くのは何度目かである。そこでの、ざっくりした印象。 僕は80年代前半の学生の時に、東京郊外で、「障害者」自立生活運動とかかわりをもった。90年代以降は、被差別部落の運動と断続的にかか…

吉本隆明の講演会

講演会で、吉本の話を二度聞いたことがある。1985年に、初めて吉本の姿を見たときの印象は強烈だった。マイクの前にたったのは、いかつい職人のような男で、話し始めても、語気が強くまわりくどい例の語り口だったから、これがあの吉本隆明なのかとあてがは…

『最後の吉本隆明』 勢古浩爾 2011

読書会の課題図書で読む。僕より少し若い人による選定。世評の高い吉本を知っておきたいという動機からのようだった。もし吉本コンプレックスというものがあるなら、そんなものは必要ないことをいいたくて、多少力を入れて読んでみた。 吉本の忠実な読者によ…

ジョウビタキとカトリヤンマ

夕方、夫婦で久しぶりに散歩をする。妻が、和歌神社にお礼参りにいくというので付き合ったのだ。前回、心配でお願いしていた検査結果が良かったから、スーパーで買った日本酒の小瓶をお供えするらしい。和歌神社の社殿の前でふたりそろってお参りしたが、妻…

虹の足

通勤で川沿いの道を車で走っていると、にわかに雨が強くなる。すると正面に虹が見えたので、道路わきの神社の大きな駐車場に車をとめて、観察することにした。 はじめは右半分くらいしか見えていなかったのだが、いつのまにかうっすらときれいな半円を描いて…

天邪鬼と女郎蜘蛛

ポーの短編小説のなかに、「天邪鬼」(the perverse)を人間の本質とみる視点があることを書いた。われわれは、そうしてはいけないから、かえってそれをしてしまうのだ。ポーは小動物をいじめてしまうことを、その実例にあげている。 僕も自然観察者を気取り…

メタ・コミュニティのような話

昔勤めていたのは、塾長が大学生の頃に仲間と始めたまだ若い塾だった。僕が入社した頃は、塾長は30歳を過ぎたくらいだったが、東京郊外に5教室ばかりあって、さらに教室を増やそうとしていた。教室ごとに専任講師が2名ほどと学生バイトの講師が多くいたと思…

カメムシの侵入

庭のケヤキの木には、だいぶ以前から、毎年小さなカメムシが発生する。緑色ではなく、グレーの体で、幼虫の姿は、宇宙人のようにつるっとしている。我が家では見慣れた種類なのだが、手元の図鑑にはのっていない。 今頃の季節には、冬越しのために家に侵入し…

赤松と黒松

昔、知人から、赤松と黒松の松葉の見分け方を教えてもらったことがある。そのときは、樹木にも、まして松葉には特に関心がなかったので、そんなものかと聞き流していた。 大井川歩きを始めて、地元を意識するようになった。今の地元は、海沿いなので、黒松が…

光速の竜とアサギマダラ

新幹線のホームに、南からやってきたN700系が停車している。例の恐竜のような長い鼻先を突き出して。 ふと架線の上に目をやると、ヒラヒラと飛ぶ蝶が目につく。白地に黒いシマの羽に、紅のアクセントが目をひく。南下の長い長い旅の途中のアサギマダラだ。 …

『絶滅の人類史』 更科功 2018

今、かなり売れている新書らしい。確かにくだけた比喩を使うなどして、かなりわかりやすく、目新しい学説を紹介している。しかし、実際には複雑な人類の進化史を踏まえているだけに、すんなり読み通せる内容ではなかった。 子どもの頃、図書館で人類史の本を…

聖地巡礼巻き戻し篇 (その2)

旅行から戻って、さっそく近所のレンタルビデオ店に行ったのだが、残念ながら在庫がない。配信とかもあるらしいが、おじさんには何のことだかよくわからない。近くの書店によると、原作の漫画の方はずらっと並んでいたので、数冊買って帰った。 しかし実は若…

聖地巡礼巻き戻し篇 (その1)

家族旅行で小豆島に出かけた。海岸沿いのホテルに泊まって、ロビーの観光案内のチラシをあさっていると、テレビアニメの舞台となった場所を示した地図が置かれている。いわゆる「聖地巡礼」用のものだが、聞いたことのないアニメだ。 『からかい上手の高木さ…

内省と「無限の命」

先月、羽田信生先生の講演を聞いて、こんなことを書いた。 仏教の教えは、「私とは何か」という内省に尽きる。「苦」の生活から、内省によって自らの内なる「無常」に目覚め、「無我」の生活を開始する。その内容は、法と一つになり、大きな無限の命とともに…

輪島の訃報

大相撲の元横綱輪島(1948-2018)が亡くなった。記録を見ると、初土俵から3年半で横綱に昇進したのが1973年で、引退が1981年。ちょうど僕の中学、高校の頃が全盛期で、家族の影響もあって、相撲を一番見ていた時代だと思う。 父親はしぶい取組の大関旭国が…

写真を撮りましょうか?

家族連れで、観光地を歩いた。本当に久しぶりのことだ。子どもがなんとか仕上がるまでは、経済的にも、精神的にもそれどころではなかったので。 若い女性から、写真を撮りましょうか、と不意に声をかけられる。いや、大丈夫です、ととっさに答えてすれちがう…

新幹線の鼻づら

自分が漠然と感じていながら、とりたてて言葉にしていなかったことを、他の人から指摘されて感心する、ということがたまにある。ある会合で、怖いモノ、の話がでたときに、新幹線の先頭部分(正式にはノーズというのだろうか)が怖い、という若い女性がいた。…

虚栄心の力を否定するものは虚栄心しかない

サマセット・モームの『英国諜報員アシャンデン』(1928)から。 「魂を悩ます感情のなかで、虚栄心ほど破滅的で、普遍的で、根深いものはありません。愛以上に破壊的です」とアシャンデンは語る。だから、ある一つの虚栄心の暴走を止められるのは、また別の…

傷を負うということ

数年前、地元の自治会の役員を引き受けたことがある。なり手がなくて、仕方なくしたことだが、自分が歩ける範囲に責任をもつ、という大井川歩きの原則には適ったことだと無理に納得していた。結果的には、旧集落の役員とも知り合いになれて、よい経験をした…

巨大魚の遡上

職場の昼休みに散歩していると、コンクリートで三面を固められた用水路の流れの底に、大きな魚の影を見つけた。鯉やナマズがいてもおかしくないので、まじまじと見つめると、ヒレが目立たないぬめっとした姿に、ナマズだろうと見当をつけた。しかしどこか違…

旧友の虚像と実像

20代の頃、東京の郊外の進学塾で、3年ばかり専任講師をしていたことがある。その時の同僚と、30年ぶりに会うことになった。待ち合わせの小さな駅のロータリーに車をとめても、それらしい人影はない。5分ほど待ってから電話をすると、さっきから階段の脇に立…

ひとつのネタを何度も使ってはいけない

サマセット・モームの『英国諜報員アシャンデン』(1928)から。 主人公のアシャンデンは、こう続ける。「ジョークは長居せずに気まぐれに、いってみれば、花をめぐるミツバチのようでなくてはならない。一発決めたら、すぐに離れて次に移る。もちろん、花に…

人は揺り籠から墓場まで、束の間の人生を愚かに過ごして命を終える

サマセット・モームの『英国諜報員アシャンデン』(1928)から。 モームの小説は面白い。モームの描く人物は、どれも魅力的だ。大衆的でわかりやすく、極端だったりするのだけれども、人間というものの根底を押さえているから、命を吹き込まれているかのよう…

基礎研究と体験活動

今年も、日本人のノーベル賞受賞者が誕生した。ひと昔前は、手放しで賞賛して、あげくにはアジアの諸国への優越感を振り回すような論調まであったが、ずいぶん冷静な受け止め方に変わってきたように思う。現在の受賞は、かつての研究の成果なのであり、目先…