大井川通信

大井川あたりの事ども

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

テンちゃんと山伏どん

休みの日。妻は彫金教室に、次男は温泉施設に出かけたので、昼前にぶらりと家を出る。車だから、今日は大井川歩きモードではない。 駅近くのランチカフェで、マスターの高崎さんと、ランチを食べながら話し込む。ゆるキャラを考案し、絵本をはじめとする商品…

本の読み方・本との戦い方

読書会の課題図書の小説『輝ける闇』をさっさと読み切って、期限の迫ったレポートを手早く書き上げた上で、腑に落ちないところを考え込んだ。それで翌日の会には、何とか自分なりの読みを持ち込むことができた。その少し前に別の読書会で読んだ評論系の『急…

『輝ける闇』 開高健 1968

読書会の課題図書。高名な小説家開高健(1930-1989)を初めて読む。僕の親世代の作家で、今の僕の年齢くらいで亡くなっていることを知る。 ベトナム戦争で南ベトナム軍に従軍し、ジャングルでゲリラに迎え撃たれ、部隊の多くが戦死するなかで敗走する場面が…

ひさの5周年祝賀会手品演目

ひさの5周年のお祝いの食事会に招待された。昨年のデイサービスゆいまーる5周年に引き続いて、手品を披露する機会をいただいた。小学校以来、芸歴は50年近くになるが、ステージマジックを実演する機会はめったになく、できる演目も限られている。 記憶に…

樹空(つづき)

樹空という言葉で思い出したもう一つの詩は、僕の好きな丸山薫の、詩集にも入っていない無名の詩「樹と少女」だ。長い詩なので、5連中の第3連のみ引用する。 或る夜ふけ なにかの声で/不意に眠りから呼び戻された/月があったので私は無灯で庭へおりた/…

樹空

樹空という言葉はあるのだろうか。ネットで見ると、富士山の近くの公園の名前として出てくるだけだ。 以前、知り合いの画家の山本陽子さんの展覧会に行ったとき、テーマが「樹空」だと教えられたことがある。樹の梢や枝の葉がふれているあたりの空間のことだ…

新開景子さんのあしあと

2年前に近所のマンモス団地で行われた連続講座に通った。題して、団地再生塾。建設して半世紀近くなる団地には、高齢化や空き家の増加等の問題がある。それを住民主体で、様々な手法や実践事例を学びながら考えようという講座だった。 中心人物が大学の建築…

ごちゃごちゃになる

新しい猫の九太郎が我が家にやってきてしばらくは、九ちゃんのことを、前の猫の名前八ちゃんと呼んでいることが多かった。そのうち、九ちゃんと呼んだり、八ちゃんと呼んだり、ごちゃごちゃになってしまう。さすがに今では、九ちゃんに統一されてきたようだ…

『急に具合が悪くなる』 宮野真生子・磯野真穂 2019

ガンで死に直面した哲学者と友人の文化人類学者との往復書簡。読書会の課題図書として読んだのだが、僕には、とても読み進めるのが難しい本だった。 細かい違和感は多くあるのだが、その大本を探っていくと、次の二点に突き当たる。 一点目は、礒野さんの書…

大井川沿いを「ひさの」まで歩く

朝、家を出る。久々に遠出を考えて、遠くに見える多礼村の里山を目標にしようと思い立つ。大井川の水辺で、イソシギがおしりを振っているのを眺めてから、古民家カフェの村ちゃこに寄ったのが間違いだった。 村の賢人原田さんが難しい顔をして、何やら書をし…

くまちゃんと九太郎

臆病な九太郎は、僕がいるときしか二階には上がってこない。誰もいない二階で、どしんばたんと音を響かせて運動会をしていたはっちゃんとは、まるでちがう。 だから、座敷猫の九太郎は、一階のリビングやキッチンが中心の狭い世界の中で暮らしている。登場人…

テンもいてんの?

玄関先のポーチに細長い小さなフンが置かれている。妻に聞くと、以前から時々見かけるらしい。ネットで調べると、イタチのフンであることがわかった。 イタチは石張りの玄関にフンをすることを好むという習性までわかった。フン害にあった人が、ネットで現場…

評論で読む

月に一度の映写技師吉田さんとの勉強会。吉田さんは、急遽入ったイベントの仕事のため、東京との間を片道十数時間の運転で、台風のさなか、配送できなくなった機材を自ら載せて往復したばかりという。同世代にして、そのバイタリティに感心する。 今回のレジ…

「お財布・携帯・鍵」

僕は、とにかくそそっかしい。それでよく、出かけるときや外出先でかんじんなものを忘れる。それを見かねた友人が、もう10年以上前に作ってくれた合言葉が、「お財布・携帯・鍵」だ。なるほど、この三つさえあれば、あとはなんとかなるだろう。 しかし、この…

生きるときは無名者として生きるのだから、死ぬときは王者として死なねばならぬ

高橋睦郎の短詩集『動詞』から。表題は、「生きる・死ぬ」。 たぶん老いることや、死へのプロセスについては、ある程度理解はすることができても、死それ自体については、よくわからないまま、まるで納得できないままに、その時を迎えるのだろうと思う。その…

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』 フレデリック・ワイズマン監督 2017

ひょんなことで、図書館に関する勉強を始めている。テキストや雑誌に目を通し、図書館をめぐる最新動向をにわか勉強した。図書館ではないけれども、社会教育施設や博物館での仕事経験がある。学生時代には、公民館での活動に参加していた。 こうした予備知識…

虫の死によう

大井を歩いていると、アスファルトの上にスマートなトンボが落ちている。腹の付け根が極端に細く、腹部の黄色いシマは目立たない。黄緑色の身体に鮮やかなブルーの斑点がある。夕方になると、目の前をぐるぐると元気に巡回していたカトリヤンマだ。季節が終…

大風の中の大井川

遠くに過ぎたはずの台風の余波でまだ風が吹き荒れているときに、僕は高台の住宅街を降りて、大井川に向かった。もちろん危険というほどの状態ではないのだが、念のために帽子をかぶって。 大風を浴びながら、大井を歩いてみたかったのだ。周囲が刈り取られた…

したたがない(仕方がない)

小学生のころの次男の口ぐせは、この言葉だった。ほかの子どもよりも、だいぶしゃべり始めるのが遅かったから、まだしっかり発音できなかったのだ。 「障害」があることで、ずいぶんつらかったり、孤独だったりしたこともあったはずなのに、次男は、一度も学…

台風19号(ハギビス)の恐怖

台風の通り道といわれるような地域で暮らしているので、ずいぶん台風のことはわかったつもりになっている。 台風の進行方向で右側が風が強くなるが、左側はそれほどでもない。しかし、右側で近くを通っても、風がそこまで強くないときもある。屋根がわらがた…

触るということ

知り合いの老人介護施設を訪ねたりしたとき、少しドキッとしてしまうのは、職員さんとお年寄りが、ごく自然に身体をふれあっているのを見たときだ。ちょっと見てはいけないようなものを見てしまったような気さえする。 これはおそらく、人間同士がふれあうこ…

声について

以前、授業名人と呼ばれる小学校の先生の授業を見学したことがあるのだが、そこで先生が、様々なキャラクターを使い分けて授業をしている姿に驚いた。こわもてのキャラ。威厳のあるキャラ。面白いキャラ。内気なキャラ。そうした変化を演出しているのは、身…

「障害者」という言葉

近頃は、どんな人の話も、自分の身の丈でしか聞けなくなったような気がする。その人の身から出た言葉を、自分の身に置き換えて聞く、というようにだ。昔は、もう少し言葉や思想をそれ自体として受け取っていたような気がするのだが、よく思い出せない。おそ…

(自分の子どもに)あなたはどなたですか?

ぼけて、自分の子どものことがわからなくなったお年寄りの話を聞くことがある。僕の妻の母親も、病院に入ったとき、面会にいった妻のことがわからなくなったときがあって、妻もショックを受けていた。 人間にとって、一番身近で大切なのは親子関係だろう。そ…

イタチがいたっち

夜、近所で車を走らせていると、前方の路上を低く、さっと何かが横切っていく。その妙に細長いシルエットは、道端の草原に吸い込まれるように消えていった。見送ったあとで、すぐにイタチだと気づいた。 20代で車を乗り始めたころ、地方暮らしだったから、農…

老人ホーム「ひさの」で村瀬孝生さんの話を聞く

田中好さんが自宅で始めた老人ホーム「ひさの」の5周年のあつまりがあった。メインイベントは、宅老所よりあいの村瀬孝生さんの講演だ。「ひさの」のお座敷は、80名ほどの人が集まり、冷房が必要になるほどの静かな熱気につつまれた。 田中さんは、千葉で訪…

万延元年のフットパス

朝思い立って、久しぶりに大井川歩きに出かける。 まず隣の地区の公園へ。ここでは次男に自転車の練習をさせた思い出がある。自治会の役員の時には、グランドゴルフの練習もしたっけ。しばらく来ない間にすっかり他人行儀の表情をした場所になっている。 僕…

自治会の掃除を忘れる

朝おきると、窓越しに家の真向かいにある小さな公園でにぎやかな人の声が聞こえる。昼でも子どもがめったに遊ばないような小さな公園だ。 しまった。今日は自治会の一せい清掃の日じゃないか。 今さら出ていくわけにもいかない。家のなかで身を縮めて、清掃…

「意識しないとできないことは実はどうでもいいことなのさ」

『おばあちゃんが、ぼけた。』の中の、村瀬孝生さんの言葉。 「人の暮らしって、同じことの繰り返しが基盤となって成り立っている」と村瀬さんはいう。その毎日をどう繰り返すかが大切なのであって、無意識におこなっていることほど直接生きることに直結して…

「自分が何も分かっていないということ。さらに無力であるということ」

村瀬孝生さんは、老人ホームに勤めてそう思ったという。「だから、お年寄りたちから振り回されっぱなし。でもそれって悪いことじゃないと思う」と村瀬さんは続ける。無力であることを自覚すると素直になれる。素直な気持ちでお年寄りたちに振り回されるよう…