大井川通信

大井川あたりの事ども

近代文学

『坑夫』 夏目漱石 1908

この小説は、若いころに読んだ柄谷行人の漱石論でも評価されていたし、自分の炭坑ブームもあったから、もっと早く読んでいてもよかった気がする。そうはならなかった理由が、今回読み通してよくわかった。 さほど長くはない小説だが、とにかく読み通すのに骨…

芥川と朔太郎

今日は河童忌。ネットの青空文庫で、『湖南の扇』『たね子の憂鬱』『死後』など目につく小品を読んでみるが、どれもぱっとしない。ふと思いついて、萩原朔太郎の追悼文『芥川龍之介の死』を探して読むと、これは面白かった。 昭和2年の芥川の自死の直後に書…

独歩のナショナリズム

三島由紀夫の『憂国』を読んで奇妙な気分になった。絵に描いたような美男美女のカップルが、性愛と正義とが一致する行為として切腹と自死を選ぶ。その動機であるはずの国を憂うる気持ちも反乱将校への共感も、ほとんど具体的には描かれておらず、閉ざされた…

漱石の「地域通貨」

昔、少年向けの文学全集などに、漱石のエッセイ風の小品が入っていて、読んだ記憶がある。あと、旺文社文庫の長編の付録みたいな感じでの収録もあった。 だから、漱石の小品集の標題にはなじみがあったが、その一つである『永日小品』(1909)を読み通すのは…

『黒島伝治作品集』 岩波文庫 2021

絶版になっていた黒島伝治(1898-1943)の岩波文庫が、新しく編集されて出版された。以前にも書いたが、僕が最近になって黒島伝治のことを気にするようになったのは、代表作「渦巻ける烏の群」の題名によってだった。 ロシアが舞台の小説で、カラスの群れが…

『田園の憂鬱』 佐藤春夫 1919

読書会の課題図書。近代文学の名作としては、珍しく共感できず、良いところをみつけるのに苦労する作品だった。作者とおぼしき男(青年らしいのだが、初老くらいの雰囲気)とその愛人(これも古女房みたい)とが武蔵野のはずれの古民家で始めた生活の記録で…

『彼岸過迄』 夏目漱石 1912

読書会の課題で読む。日本文学の中で、漱石と村上春樹だけは、ちゃんと読んでおきたいとぼんやり考えていた。前者は、柄谷行人や佐藤泰正先生らの漱石論があるためだし、後者は親しい安部さんが好きだからという理由からだ。 自分の感想を作ったあとで、柄谷…

泉鏡花の戯曲を読む

学生の頃、図書館で泉鏡花全集を借りてきて、ところどころ読みかじっていた時期があった。法律の勉強にあきて、現代思想にのめり込む前の、ごく短い期間だったと思う。よくわからない言葉も多く、描かれる風俗習慣は別世界だ。しかし、読むとその作品世界に…