近代文学
北部九州出身の小説家として、人から薦められて手に取った本。葉山嘉樹(1894-1945)がプロレタリア文学の作家だという文学史の知識はあったが、読むのは初めてだった。 新しい編集の岩波文庫で、12編の短編を収録してやや厚めとはいえ、読了まで一か月以上…
漱石(1867 -1916)の未読の中編を読んでみる。新潮文庫では『二百十日』といっしょに収録されている。小説としては未完成というか実験的な感じでごつごつしており、読みにくくあまり面白くはなかった。 学問の理想に生きようと既に達観している元中学教師…
漱石の忌日だから、出勤前に文庫本の棚をのぞいて、文庫で70ページ程度の短い小説を読むことにする。今年は漱石の評論の射程の広さ、深さに驚いたこともあり、漱石の主要作品は読み通してみたいと考えていたところだった。そのきっかけにしたいと思う。 『二…
この小説は、若いころに読んだ柄谷行人の漱石論でも評価されていたし、自分の炭坑ブームもあったから、もっと早く読んでいてもよかった気がする。そうはならなかった理由が、今回読み通してよくわかった。 さほど長くはない小説だが、とにかく読み通すのに骨…
今日は河童忌。ネットの青空文庫で、『湖南の扇』『たね子の憂鬱』『死後』など目につく小品を読んでみるが、どれもぱっとしない。ふと思いついて、萩原朔太郎の追悼文『芥川龍之介の死』を探して読むと、これは面白かった。 昭和2年の芥川の自死の直後に書…
三島由紀夫の『憂国』を読んで奇妙な気分になった。絵に描いたような美男美女のカップルが、性愛と正義とが一致する行為として切腹と自死を選ぶ。その動機であるはずの国を憂うる気持ちも反乱将校への共感も、ほとんど具体的には描かれておらず、閉ざされた…
昔、少年向けの文学全集などに、漱石のエッセイ風の小品が入っていて、読んだ記憶がある。あと、旺文社文庫の長編の付録みたいな感じでの収録もあった。 だから、漱石の小品集の標題にはなじみがあったが、その一つである『永日小品』(1909)を読み通すのは…
新編集の文庫には、エッセイもいくつか載っている。小説では技巧をみせる伝治も、ここでは素朴でぶっきらぼうだ。 「入営する青年たちは何をなすべきか」では、青年たちに、軍隊に入ることで兵器の使い方と組織的な動き方を学び、来るべきブルジョアジーとの…
絶版になっていた黒島伝治(1898-1943)の岩波文庫が、新しく編集されて出版された。以前にも書いたが、僕が最近になって黒島伝治のことを気にするようになったのは、代表作「渦巻ける烏の群」の題名によってだった。 ロシアが舞台の小説で、カラスの群れが…
読書会の課題図書。近代文学の名作としては、珍しく共感できず、良いところをみつけるのに苦労する作品だった。作者とおぼしき男(青年らしいのだが、初老くらいの雰囲気)とその愛人(これも古女房みたい)とが武蔵野のはずれの古民家で始めた生活の記録で…
読書会の課題で読む。日本文学の中で、漱石と村上春樹だけは、ちゃんと読んでおきたいとぼんやり考えていた。前者は、柄谷行人や佐藤泰正先生らの漱石論があるためだし、後者は親しい安部さんが好きだからという理由からだ。 自分の感想を作ったあとで、柄谷…
学生の頃、図書館で泉鏡花全集を借りてきて、ところどころ読みかじっていた時期があった。法律の勉強にあきて、現代思想にのめり込む前の、ごく短い期間だったと思う。よくわからない言葉も多く、描かれる風俗習慣は別世界だ。しかし、読むとその作品世界に…