恐怖と事件
カーナビが完全にいかれてしまった。使いこなせてはいないが、少なくとも地図としては役立っていたし、オーディオの機能もあるから音楽が聴けなくなるのは、バンメのニューアルバムが出たこの時期にはことさら痛い。 古い車だけれども、まだ数年は乗るだろう…
モチヤマの集落を歩いているとき、屋敷の庭でゴミ出しをしている人がいたので、あいさつをして、津屋崎に抜ける山道について聞いてみる。 それを手始めに、モチヤマのことをいろいろ聞くと快く教えてくれる。もちろん僕の方も、モチヤマの知り合いの名前や村…
次男を検査のために博多の原三信病院に連れていく。この病院は、タクシー暴走事件の現場になったことと、その不思議な名前で記憶に残っていた。原三信(はらさんしん)というのは、福岡藩の範囲が代々襲名する名前で、現在の病院は、第13代原三信が、1902年…
子どもの頃にお世話になった偕成社のシリーズで、小泉八雲(1850-1904)を読む。「耳なし芳一」も「ろくろ首」も「茶碗の中」もとてもいい。懐かしいだけではなくて、とても面白く色あせていない。「盆踊り」について書いたエッセイも読ませる。 西欧人から…
読書会の課題図書で、およそ40年ぶりに再読する。ところどころ覚えていて、大学生の時、読み通したことは間違いない。いつか読み直したいと思っていたので、飛び入り参加となる会のために、かなりのスピードで一気に読んだ。 期待以上に面白く、よくできた重…
大晦日になってようやく時間がとれたので、小倉の黄金市場にでかける。「なんもかんもたいへん」のおじさんに年末のあいさつをするためだ。 モノレールを降りて、黄金市場の入り口に近づくと、意外なことにいつもより人通りが多い。寿司屋の前には、ビニール…
台風の通り道といわれるような地域で暮らしているので、ずいぶん台風のことはわかったつもりになっている。 台風の進行方向で右側が風が強くなるが、左側はそれほどでもない。しかし、右側で近くを通っても、風がそこまで強くないときもある。屋根がわらがた…
通勤電車に乗る人間は、電車内の人間たちだけでなく、沿線の風景にも無関心になる。これは僕にも経験があるが、たとえば沿線の途中の駅について、何年も同じ路線を通っていて、定期券でいくらでも途中下車が可能であるにもかかわらず、特別な用でもなければ…
90年代の初めの頃、ホラー映画ばかり見ていた時期がある。レンタルビデオ店のホラーコーナーを借りつくしたくらいだった。当時もすでに『ファンタズム』はマニアの間では有名で、1979の1作目と1988年の2作目、1994年の3作目はみていたと思う。その後、1998年…
この書物を読むと、まるで2011年の東日本大震災の時の大津波の記録を読んでいるような気になる。あの時には、福島原発が「想定外」の被害を受けたということもあって、千年に一度くらいの稀な津波被害に、運悪く巡り会ったかのような印象を受けていた。事情…
近頃は、東京の都会でもタヌキの姿が見られるそうだ。僕の住むあたりでは、昼間でもタヌキを見かけたりもする。だから、タヌキ自体、それほど珍しいものではない。ただ近所も里山の開発が進んで、じりじりとタヌキの住める森の面積が減っているのは間違いな…
家族で、近所のモールに買い物に出かける。隣町に巨大なイオンのショッピングモールができてからは、わが町のモールはすっかり中高年向けの施設になってしまった。家族の待ち合わせ場所は、いつものようにフードコートだが、休日だというのに、目につくのは…
今の人は、花祭りといっても、何のことかわからないだろう。キリスト教で言えばクリスマス、仏教のお釈迦様の誕生日を祝うお祭りである。しかし、僕も、子どもの頃読んだ本でそんな知識を蓄えただけで、実際に花祭りというものを見たことはなかった。 そこは…
カーポートに面した我が家の壁には、風呂場の窓とトイレの窓とが並んでいる。どちらもアルミの格子がはめられているから油断していたのだが、のぞきを妨げるものではない。風呂場の窓は低い位置にあるが、トイレの窓は2メートルほどの高さがあって、踏み台で…
たぶん同じころだと思うが、我が家の風呂場がのぞかれるという事件があった。風呂場の窓は、隣家の敷地と我が家のカーポートをはさんで向かい合っている。 妻が風呂に入っているとき、換気のために数センチだけ開けていたはずのサッシの窓が、気づくと10セン…
窓を開いて部屋の片づけをしていると、空き家になっていた隣家から子どもたちの歓声が聞こえる。ベランダで不動産屋らしきスーツの男が説明している様子が見える。入居希望の家族だろうか。 隣家の主人が職場での盗撮事件で逮捕された旨の記事が新聞に出たの…
ひろちゃんの娘さんから聞いた話。 子どもの頃、おてんばだった娘さんはマスマル池に入って泳いだそうだ。池の土手では友だちや弟が見守っている。もう足がつかないところまできたとき、子どもたちが騒ぎだした。娘さんの先を泳いでいたいとこの女の子が、お…
大井の兄弟をめぐる悲劇も、それを知る人がいなくなれば、忘れられていくだろう。やぶの中の地蔵だけが、その痕跡となるだろうが、その意味を知ろうとする人は、これからの時代にはあらわれそうにない。 かつては、そうした記憶はもっとながく受け渡されてい…
兄弟のいさかいによる悲劇は、おそらく四、五十年前の話だろう。家屋も取り払われて、集落の記憶の中で日付も輪郭もあいまいになっているが、かえって濃密なリアリティが感じられる。これが10年前の事件となると様子は別だ。 大井で、ある男の自宅で3人が酒…
大井で以前にあったこと。 ある家に住む兄弟同士が、何かでいさかいを起こし、一人が一人を鎌で切りつけたのだという。血だらけになって倒れた兄弟を見てようやく我に返った男は、兄弟を殺してしまったと思い、近くの木で首を吊ったそうだ。切られた方の兄弟…
いつの頃からか、年賀状が恐ろしくなった。誰に出すべきなのか、何を書くべきなのかがよくわからない。いや、考えればわかる程度のことだが、それを考えるのがおっくうだ。 パソコンで作成するようになってからは、作り出したら一晩で出来てしまうほど手軽に…
毎日、通勤の車で森の中の道を走っている。道の両側の草が刈られたので、森の中が見とおせるようになった。暗い森では、雑草も茂らないのだ。 12月も半ばを過ぎて、森の中のあちこちに赤い人影のようなものが立ちすくんでいるのに気づいた。暗い森の中で、…
今から10年前の2008年に、東京小石川の印刷所で、凄惨な事件が起こった。社長の男が、経営の行き詰まりから、創業者である父親と母親、自分の妻を殺し、現場を目撃して逃げた長女以外の二人の子どもに重症を負わせたという無理心中事件である。本人は自殺を…
三億円事件発生から、今日でちょうど50年だそうだ。 僕はずっと以前から、事件現場に足を向ける趣味があって、オウム事件の時は、上九一色村のサティアンを見にいったりした。実は今回の東京出張でも、五つの美術館とともに二つの事件現場をはしごした。何気…
東京深川の富岡八幡宮にお参りした。昨年の12月7日に、現宮司の姉が元宮司である弟に刺殺されるという事件が起きた場所である。犯人である元宮司夫婦が、神社を解任された後5年ほど住んでいたのが、僕と同じ市内の近隣の住宅街だったことは前に書いた。 事…
足首の金具をはずす手術のあとは、部分麻酔が十分に効いていたから、前回の時のような激痛は免れた。しかし、その代わり少し不思議な体験をした。 手術した右足は、ふくらはぎから足首まで包帯におおわれて、足指の付け根くらいから上だけが露出している。そ…
以前に足首の骨を折ったときに、全身麻酔の手術を受けたことがある。移動用のベッドに載せられ手術室に入っていくとき、仰向けに見上げる部屋の天井や医師たちの様子が、映画のシーンみたいで既視感があった。人生の最期に観る景色は、こんなものかもしれな…
自分が漠然と感じていながら、とりたてて言葉にしていなかったことを、他の人から指摘されて感心する、ということがたまにある。ある会合で、怖いモノ、の話がでたときに、新幹線の先頭部分(正式にはノーズというのだろうか)が怖い、という若い女性がいた。…
ヤマガラが、木の幹に出来た穴に何度も出入りしているのを見てから、林を歩いていても、木の穴がむしょうに気になりだした。上を向いた木の穴には、水がたまっていることがある。ヤマガラは、そこで水浴びをしていたのだ。 その同じ穴の中に、今度は、スズメ…
どうということのない日常の出来事が、いつまでも新鮮に思い出されるということはあるが、やはり社会的に大きな事件は、はっきり記憶に残るものだ。 2001年の当時は、仕事が忙しく、深夜の帰宅が当たり前だった。長男が小学校に入学し、次男は2歳に。頭を床…