大井川通信

大井川あたりの事ども

ラフカディオ・ハーンのレンズ

時々、ラフカディオ・ハーン小泉八雲   1950-1904)の怪談が無性に読みたくなる。で、角川ソフィア文庫の池田雅之編訳による『新編  日本の怪談』を読んでみた。ハーンには『怪談』という著書があるが、それ以外からも大小の珠玉の怪談を集めて、テーマ別に並べた編集になっている。

「むじな」「ろくろ首」「雪女」「耳無し芳一」は、誰もが知るような怪談話で、僕も子どもの頃から繰り返し読んだり、聞かされたりしてきたはずだが、そんなネタバレがありつつも、ハーンの語りはみずみずしい魅力と驚きにみちている。

「安芸乃介の夢」等の転生や異界をめぐる話やもツボにはまるし、何より「果心居士の話」に出てくる仙人に魅力を感じる。どの話の選択にも、語りのスタイルにも、語り手の解説にも違和感がない。なんでこんな話を選んだのだろう、とか、変なところに興味をもって解説しているな、とかいう部分がない。

これは、明治に来日して、晩年の14年間だけ日本に住んだ外国人の著作として、驚くべきことだと思う。ハーンが取り上げた話の原話や原典はさまざまだから、彼が任意に選択して再話をしなかったら、今頃散逸してしまった話も多いだろう。あるいは、ハーンが語り直さなかったために、表舞台に上がることなく消えてしまった怪談のパターンも無数にあるのではないか。

つまり、僕らの妖怪や異界や変異に関する一般的な感覚や嗜好は、かなりな程度ハーンの作品によって作られているような気がするのだ。この影響力の強さは、柳田国男の『遠野物語』をも超えている感じがする。

日本の怪談話に向けられたハーンのレンズが、時代や文化を超えて何か普遍的なモノに届くような解析度を備えていたと考えるしかないだろう。その視力の確かさは、怪談だけでなく、日本をめぐるエッセイの中でも発揮されている。

 

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