大井川通信

大井川あたりの事ども

言葉ノート

嵐の前の静けさ

今までの経験したことのないような最強台風がくるという。土日に重なり対策が取りやすかったためか、スーパーのペットボトルや菓子パン類が売り切れている。息子二人といっしょに家の外回りを片付け、飛びそうなものをロープでしばったりした。 雨戸のない窓…

あだ名について

人のあだ名をつけるのが上手な人がいる。人の物まねをするのが上手い人がいるが、それと同じような一種の才能だろう。 子どもの頃は、友人同士や教師にたいしてふつうにあだ名をつけていたと思うが、大人になると、そもそもあだ名というものにめったに出会わ…

ペットロスということ

新聞記事で、ペットロスという言葉を知った。言葉の成り立ちからすれば、意味の取れない言葉ではない。けれどそれがどれほど深刻な意味をもっているかは、実際にペットを飼ったものにしかわからない、と記事に書いてある。 自分の親が亡くなったときより悲し…

みんなちがって、みんないい

金子みすゞの詩「私と小鳥と鈴と」の一節から、有名になった言葉。 やさしい詩だけれども、ここでいう「ちがっていい、みんな」とは、私という人間と、小鳥という生き物と、鈴というモノであることに注意を要する。これを単なる比喩とみなすから、学校で人権…

夢野久作の息子さんです

僕の妻が子どもの頃、ボーっとしているとき、「ゆめのきゅうさくのごたる」(夢の久作みたいだ)とよく言われたことは前に書いた。今度は、安部さんから聞いた話。 安部さんの知り合いの人が、昔、夢野久作の三男である参緑(さんろく)さんを自宅に招いたと…

カエルを食べてしまえ!

近ごろ読んだ英文のビジネス書の標題。やるべきことのリストの中で、一番やりたくないことから片づけなさいという趣旨。よく言われていることだが、醜いカエルに手を伸ばしてたべてしまおうという、おぞましい比喩にしたところに手柄がある。 そういえば、気…

ゆめのきゅうさくのごとある

夢野久作というペンネームが、博多の方言に由来することは、比較的有名な話だと思う。二葉亭四迷という筆名の由来が「くたばってしめえ」であることほどメジャーではないかもしれないが。「夢の久作」が「夢想家、夢ばかり見る変人」の意味であることはネッ…

自分の猫が幸せならそれでいい

直近の芸能ネタにこんなのがある。ある芸能人が、仕事も順調で、誰もがうらやむ年下の美人女優と結婚し、子どもにも恵まれたにも関わらず、自分の性癖からなのか複数の浮気が発覚し、成功を失いかけている。 ネットでの芸能ニュースにはたくさんの読者のコメ…

「自粛警察」で気づいたこと

コロナ禍で、自粛警察という人たちが発生しているそうだ。他県ナンバーの車や、営業している店に対して文句をいったり、公園に集まっている親子連れを警察に通報したりしているらしい。 少し前のことになるが、近所の知り合いの店でも、SNSに「店においでく…

五十音図の起源

『日本語をつかまえろ!』(飯間浩明 2019)から。 「いろはにほへと」の歌は古くからあるだろうと思っていたが、五十音図がそれと同じくらいの千年の歴史をもつものだとは知らなかった。せいぜい、明治以降に近代教育のために整備されたものだと漠然とイメ…

谷の読み方

『日本語をつかまえろ!』(飯間浩明 2019)から。 谷は、普通名詞として使う場合は、「たに」としか読まない。では、地名として使う場合はどうなのか。著者によると、関東や東日本では「や」と読むことが多く、関西や西日本では「たに」と読む地名が多いと…

登記を為すに非ざれば対抗することを得ず

「不動産に関する物権の得喪及び変更は登記法の定める所に従い其登記を為すに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ず」 改正前の民放177条は、全文をあげるとこんな条文だった。実際は旧仮名遣いでカタカナ表記だから、さらに読みにくくなる。今では、…

一芸に秀でる

講演で、ある芸人の話を聞いた。これが、「壊滅的に」つまらない話だった。なんというか、まるで引き込まれないというか、内容も面白くなければ、話術もなっていない。 そんな彼がなぜ講演の講師を務めているかというと、漫才師がまるで売れないために、やっ…

物言えば唇寒し秋の風

芭蕉の句から転じて、人の悪口(自分の自慢)を言えば後味の悪い思いをするというたとえや、余計なことをいえば災いを招くというたとえで使われる、と辞書にはある。 僕は以前から、苦い思いでこの言葉をかみしめることが多かった。現に今日もそうだ。ただそ…

「お財布・携帯・鍵」

僕は、とにかくそそっかしい。それでよく、出かけるときや外出先でかんじんなものを忘れる。それを見かねた友人が、もう10年以上前に作ってくれた合言葉が、「お財布・携帯・鍵」だ。なるほど、この三つさえあれば、あとはなんとかなるだろう。 しかし、この…

したたがない(仕方がない)

小学生のころの次男の口ぐせは、この言葉だった。ほかの子どもよりも、だいぶしゃべり始めるのが遅かったから、まだしっかり発音できなかったのだ。 「障害」があることで、ずいぶんつらかったり、孤独だったりしたこともあったはずなのに、次男は、一度も学…

「障害者」という言葉

近頃は、どんな人の話も、自分の身の丈でしか聞けなくなったような気がする。その人の身から出た言葉を、自分の身に置き換えて聞く、というようにだ。昔は、もう少し言葉や思想をそれ自体として受け取っていたような気がするのだが、よく思い出せない。おそ…

イタチがいたっち

夜、近所で車を走らせていると、前方の路上を低く、さっと何かが横切っていく。その妙に細長いシルエットは、道端の草原に吸い込まれるように消えていった。見送ったあとで、すぐにイタチだと気づいた。 20代で車を乗り始めたころ、地方暮らしだったから、農…

「意識しないとできないことは実はどうでもいいことなのさ」

『おばあちゃんが、ぼけた。』の中の、村瀬孝生さんの言葉。 「人の暮らしって、同じことの繰り返しが基盤となって成り立っている」と村瀬さんはいう。その毎日をどう繰り返すかが大切なのであって、無意識におこなっていることほど直接生きることに直結して…

「自分が何も分かっていないということ。さらに無力であるということ」

村瀬孝生さんは、老人ホームに勤めてそう思ったという。「だから、お年寄りたちから振り回されっぱなし。でもそれって悪いことじゃないと思う」と村瀬さんは続ける。無力であることを自覚すると素直になれる。素直な気持ちでお年寄りたちに振り回されるよう…

人間とは本来「自然、時間、土地」という自身でどうにもできない条件に制約された存在です

アメリカの政治学者パトリック・デニーンの言葉。新聞のインタビュー記事で見つけたものだが、今の自分にはとてもしっくりとくる言葉だ。 自由主義は、こうした制約をなくても困らないものとし、自分が思う通りに自由に動き回ることをよしとして、そこから膨…

つぎは15メートルの流しそうめんがやりたい

職場がある地域の敬老会に参加する。 この夏には、自治会の役員さんたちの協力で、地元の竹を使って流しそうめんの台をつくってもらった。子どもたちにはとても好評だったから、そのことのお礼をあいさつで言おうと思った。竹を接いで、8メートルの長さの台…

自分の子どもには最後までかかわらないといけない

職場の先輩のことば。 子育ては、むずかしい。自分ひとりが生きることだって、とてつもなく大変で、ふりかえれば欠落ばかりなのだから、まして他者の人生に大きく関与するふるまいが、うまくいかないのは当たり前なのかもしれない。 それなりに関わってきた…

ネタ作り

漫才師でもお笑いタレントでもないけれど、僕は、いつもネタ作りに励んでいる。ネタといっても、面白い話のネタ、といったほどのものだ。意図してやっているというより、無意識のうちに、結果的にそうしてしまっているのだ。 こんなふうに毎日ブログを書いて…

「私は淫祠(いんし)を好む」

永井荷風(1879-1959)が東京の街中を散策したエッセイである『日和下駄』(1915)の一節。淫祠(いんし)とは、いかがわしい神をまつったヤシロやホコラのこと。 「裏町を行こう。横道を歩もう。かくの如く私が好んで日和下駄をカラカラ鳴らして行く裏通り…

「夢であった、―すべてが夢であった。どこに夢でない真実があるのか」

田宮虎彦(1911-1988)の小説「足摺岬」(1949)の末尾の文章。 昭和の初め、病に侵され大学を中退し足摺岬に死に場所を求めてきた「私」は、死にきれずに、遍路を泊める宿で、女将たちの介抱を受ける。80歳を過ぎた老遍路は戊辰戦争の生き残りで、薬を無償…

「自分自身の身体を使って、身の丈に合ったものを運ぶという、ヒトの原点にあったはずのつつましさを思い出すこと」

『〈運ぶヒト〉の人類学』(川田順造 2014)の末尾の文章から。岩波新書でも活字が大きく薄い本だが、碩学の深い経験と知見が盛り込まれて、読みごたえがある。 著者川田順造(1934-)は、「文化の三角測量」という方法をとる。全く関連がないかに見える三…

村の賢人から書を購入する

大井村の賢人原田さんを訪ねる。賢人は、日焼けして真っ黒だ。勤務している幼稚園につくった芋畑の雑草抜きが大変だという。賢人は、夏は仕事が多くなるから嫌だといいながら、実によくはたらく。 賢人が借りている田んぼには、今年もジャンボタニシが大量発…

井山、いやまて!

僕の小学校の頃にも、道徳の時間というものがあって、副読本みたいな教材を使っていたと思う。その中に、語呂合わせみたいなこの言葉が出ていて、妙に耳にこびりついている。 クラスの子どもたちが、ケンカをする。それをとめた担任の井山先生が、あとでみん…

暗礁と空ぶかし

政治を語る言葉は、とても単純だ。たとえば、ある政党の政治家の語る言葉は、つねに、政権の悪だくみを暴く、というものに終始していた。僕ははじめ、それを大衆を動かすための方便なのかと思っていたが、どうやらそうではなく本気らしい。かつて埴谷雄高が…