大井川通信

大井川あたりの事ども

美は退屈である

モームの小説『ビールとお菓子』から。

「美は恍惚であり、空腹のように単純だ。美について何か語るべきことなどありはしない。バラの香水のようなもので、香りを嗅いで、それでおしまい。だからこそ、芸術の批評というのは、美と無関係つまり芸術と無関係であるものをのぞけば、退屈なのだ。ティツィアーノの『キリストの埋葬』はもしかすると世界中の絵画の中で最も純粋な美を持つといえるかもしれないのだが、批評家がこの作品について言いうることは、実物を見てきなさいというだけである」

「美は袋小路である。山の頂上であり、到着したらあとはどこへも通じていない。だから我々はティツィアーノよりエル・グレコに、ラシーヌの完璧な傑作よりもシェイクスピアの不完全な作品に、より多く魅了されるのである」