大井川通信

大井川あたりの事ども

美術

現代美術作家との対話

現代美術家の外田久雄さんと、小倉のコメダで会う。昨年は安部さんの遺稿集を一緒に作ったので何度も会う機会があったが、今年は初めてだ。 実は昨年の共同作業をきっかけにして年末に何かの企画を始められたらと話していたのだが、お互いが忙しくて実現でき…

「カタストロフが訪れなかった場所」 SECOND PLANET 2024

OVERGROUND Gallery 2(福岡市美野島)を会場とするセカンド・プラネットのインスタレーション。5年前、小倉で展開した作品を再構成した展示で、以前外田さんからはそのコンセプトと概略を聞いていたので、ある程度内容を予想して会場を訪れた。ところが予…

フェルメールを何点みたか?

夏風邪療養中意欲回復企画第2弾。 以前から気になっていたが、僕はいったいフェルメール(1632-1675)の実物を実際に何点目の当たりにしたことがあるのだろうか。展覧会のチラシやカタログを取り出したのをついでに、数えてみようと思った。 友人が大判のフ…

府中市美術館への感謝 ♡

夏風邪をひいてしまった。風邪は今年何度目だろう。ここのところずっと体調も思わしくない。気分転換をしようと、書棚の美術展のカタログをペラペラとめくる。 地元の美術館のものが多いが、東京の有名美術館のものも目につく。以前(2000年前後くらいまで)…

目羅博士 VS. ジョルジョ・デ・キリコ

上野の東京都美術館でキリコ展を観る。夏休み期間中とはいえ平日の朝一番なので展覧会はさほど混んでいない。 キリコ展は、1989年に新宿の小田急デパートで見て以来だ。若い頃からジョルジョ・デ・キリコ(1888-1978)の絵は好きだったのだが、展覧会の印象…

臼杵石仏に驚く

国東市に一泊して、さて翌日どうしようかと悩んだ。前日に国東半島は一人で堪能している。今日も再訪では刺激が少ない。それで足を延ばして臼杵まで行くことにした。別府、大分市の先の臼杵を訪ねる機会は今までなかった。石仏が自慢といっても、それなら国…

長沢芦雪を観る

数日前から、風邪をひいてしまった。昨年末にあれだけ風邪をこじらせたのに、まただ。東京で美術展が思いのほか良かったので、ここにきて九州国立博物館の『芦雪展』に行ってみたくなった。週末が最終日なので、どこかで時間を見つけていくしかない。 風邪で…

二つの現代美術展

年明けから現代美術を専門とする外田さん、岩本さんとの読書会が始まるから、少しは肩慣らしになるかもと二つの現代美術家の展覧会に寄ってみる。 予想通り、というかそれ以上にひっかかるものが何もなかった。しかしこれには事情がある。風邪気味が続いて体…

齋藤秀三郎先生のアトリエで議論する

西鉄大橋駅から教えられた49番のバスに乗って、的場2丁目のバス停で降りる。よい雰囲気の鎮守の杜が見えたので神社に参拝して心を落ち着けてから、住宅街の中のアトリエを訪ねる。 ここで、ある誤解が判明する。僕は齋藤先生から電話があって「あなたと話し…

耶馬渓の橋の上で101歳の齋藤先生の電話をとる

休日、妻とドライブに出かける。その前の日、珍しく耶馬渓に行きたいと聞いていたからだ。次男は教習所があるので、二人だけで行くことにした。妻はさほど乗り気ではないみたいだが、こんな時は体験上(妻の精神衛生上)出かけた方がいいのだ。 耶馬渓につく…

現代美術作家との会話

安部さんの文集の打ち合わせで、外田さんと話をする。現代美術作家として長く作品を作り続けてきた外田さんの話には、他では得られない刺激がある。 普通の人間、例えば僕の場合、生活の中で何か面白いことを思いついたりする。そのアイデアの原型を自分で楽…

『発掘・植竹邦良』展を観る

府中市美術館の企画展。市内在住の植竹邦良(1928-2013)は、ほぼ無名の画家だったが、美術館に寄贈された絵が郷土作家の作品として展示されるようになって、徐々に注目を浴びるようになったらしい。それが、没後10年たって、こうした企画展の開催に結び付…

美術展と絵葉書と図録と

次男を職業訓練校の見学に連れていくついでに、市立美術館によった。本人も美術には興味がないわけではないし、観覧料の免除制度もあるから、機会を見つけてもっと連れて行ってあげるべきだと思いながら。 印象派からエコール・ド・パリまでの名品を西欧の美…

秋本順子先生の壁面装飾を玄関にかざる

行橋のギャラリーで開催中の秋本順子先生の個展に出かける。帰省中の長男も自分からいっしょに行きたいと言ってきた。家族みんなが先生のファンなのだ。 秋本先生は妻のメタルアートの先生で、もう20年近く先生の教室に通っているだろう。武蔵野美大出身で、…

稲葉天目を観る

5年ほど前、曜変天目の再現に人生をかける陶芸家のドキュメンタリーがあって、強い印象を受けた。その陶芸家(九代長江惣吉)の淡々とした人柄も好ましかったが、何よりその破格の情熱に心を奪われた。 それ以来、焼き物について何の知識もない僕にも、曜変…

二人の中村宏

同姓同名は探せばいくらでもいるだろうが、自分にとってある程度かかわりがある人同士の同姓同名はそんなにあるものではない。僕がまず思い浮かべるのは、中村宏という名前だ。 一人目の中村宏は、僕の高校の同級生だった。公立の中学校を卒業して武蔵境にあ…

ネットオークションで絵を買う

僕は今まで、ネットオークションで版画を買ったことがある。焼き物も買ったことがある。しかし絵画は初めてだ。 版画は中村宏さんのものが二枚。小学生の頃に絵本の挿絵で知って好きになり、その後もいろいろな思い出がある画家だ。ご本人とも特別展中の美術…

僕の現代美術入門

今から15年前の玉乃井プロジェクトで、僕は初めて現代美術の作家とかかわりをもち彼ら彼女らの作品と向き合うようになった。そのとき気づいたり、学んだりした見方や方法で、その後も現代美術の作品について、時々は感想をメモしたりすることを続けている。 …

『にぎやかなえのぐばこ』 バーブ・ローゼンストック(文)メアリー・グロンブレ(絵) 2016

副題は「カンディンスキーのうたう色たち」。原著の出版は2014年。 僕は、美術館で出会う名画の中で、カンディンスキー(1866-1944)の描く絵がなんとなく好きだった。抽象画であっても、色も形象も明るく楽しく、生き生きとしている感じ。抽象画が埋まれる…

ゴッホを見に行く

コロナ禍の中、ゴッホ展の会期終了が迫っているので、空いているであろう平日に休みをとり、妻を誘って車で出かける。前日に妻が長男に電話をしていて、在宅勤務の息子と昼ごはんを食べることになった。 長男をワンルームマンションの前のコンビニでひろい、…

ある現代美術家のトークショーで考えたこと

【紙を切るということ】 阿部幸子さんは、自衛隊時代に精神の病を得て、療養中に紙を切り始めたという。 紙は無心に切るのではなく、醜いことを考えながらでないと切ることができないと言っている。以前は、死ねばいいのにとか思いながら切っていたというが…

『とらのゆめ』 タイガー立石 1984

本屋で児童書のコーナーをながめていたら、この絵本が目立つように立てかけられているのが目をひいた。タイガー立石の新刊はないだろうと思って奥付をみると、1984年発行された本の再刊のようだ。「こどものとも」という30ページばかりの月間雑誌の一冊であ…

「姿なき覚命(かくめい)」展を観る

大井川のほとりにある種紡ぎ・ムラで、村の賢人原田さんが、詩と書と絵の作品展を開催している。葉書サイズの案内状を印刷して、テーマを掲げた個展を開催するのは初めてではないのか。賢人も気合が入っている。旧家の納屋を改造したギャラリー(納屋の二階…

児童画との出会い

僕が新入社員の販売実習をしていた時、くたびれはてると、テリトリー内の公園のベンチを休憩所にしていた。常に周囲からセールスマンとして見られているという事だけでも重圧なのに、自らセールスマンとして積極的にふるまわなければならない。ノルマの圧力…

『子供の世界 子供の造形』 松岡宏明 2017

子どもの造形とその指導をめぐって、具体的に大きな見取り図が示される。その説明はやさしく納得のいくものだが、人間と表現に関する相当に射程の広い認識に届いている感じがする。まちがいなく良書だ。 著者は、まず大人と子どもの対比から議論を始める。そ…

「ショーン・タンの世界展」を観る

ショーン・タン(1974-)の絵本は何冊か読んで気に入っていたし、コロナ禍で美術展に行く機会もめっきり減っているので、楽しみにして観にいった。時節柄、入り口では入場人数の制限などしていて、期待もたかまる。 原画や制作ノートや様々な資料が展示され…

『一期は夢よ 鴨居玲』 瀧悌三 1991

何年か前に、帰省時に東京の古本屋で購入していたもの。やはり鴨居玲(1928-1985)は気になる画家だったのだろう。今回、10年ぶりに回顧展で多くの作品を観て、初めて読んだ。 鴨居とも面識のあった美術記者の手になる伝記で、かなり綿密な取材に基づいて描…

『絵とは何か』 坂崎乙郎 1976

少し古い本だ。出版後1983年に文庫化され、92年の3刷を購入している。何事にもおくての僕が、ようやく美術展を見だした頃だった気がする。 坂崎乙郎(1927-1985)には、旧時代の批評家の匂いがぷんぷんとする。 良いものは良いと断定をして、他をなで斬りに…

キスリングの肖像画

僕が美術館に行く習慣がついたのは、30歳過ぎてからという晩熟(おくて)だったが、それでももう四半世紀、めぼしい美術展をチェックしていることになる。 そうすると、有名どころの気になる画家については、たいてい回顧展を観る機会があった。キスリング(…

「玉乃井展」を観る

安部文範さんは、毎年のように自宅である旧玉乃井旅館を開放して、現代美術展を開催してきた。僕も十数年前に、玉乃井での美術展の企画に参加して、貴重な経験をさせてもらっている。複数の作家が、旧旅館の各部屋を使って、それぞれの作品を展示するのがふ…