大井川通信

大井川あたりの事ども

長沢芦雪を観る

数日前から、風邪をひいてしまった。昨年末にあれだけ風邪をこじらせたのに、まただ。東京で美術展が思いのほか良かったので、ここにきて九州国立博物館の『芦雪展』に行ってみたくなった。週末が最終日なので、どこかで時間を見つけていくしかない。

風邪できつくなって午後から家に帰ろうとしたとき、駅で、ままよと逆方向の電車に乗った。悪くなれば途中で引き返せばよい。ところが、こういう時はよくわからない使命感から気を張っているのか、往復でも現地でも調子が良く、かえって症状がやわらいだぐらいだった。やはり芸術の力は偉大だ。

長沢芦雪(1754-1799)展は、これまた思ったより良かった。日本画は色使いが少なく、空白が大きくあっさりしているので、大作であっても見るのに疲れない。体調が今一つの状態だから、これは助かった。

それで何が面白いかというと、何より線が面白く、線をたどるのが気持ちがいい。そしてその線が画面大に作り出す構図の見事さだ。屏風や襖絵の大作でこれが堪能できた。

「富士越鶴図」という小ぶりで縦長の作品があって、そこには、縦に引き伸ばされた富士山と、その中腹を奥から手前に続く鶴の編隊が描かれている。一目見て、これは中村宏ではないかと思った。デフォルメされた富士に鶴の飛行の連続写真が配されている構図は、現代の画家のシュールな感覚そのままだ。

これで、若冲蕭白、芦雪といわゆる「奇想の系譜」の画家たちの作品を実際に見ることができたわけだが、どれも良かった。西洋美術や現代美術などを背伸びして鑑賞しているものの、日本人の奥深くに響く作品は別にあるということだろう。

今回は、若冲の「像と鯨図屏風」も特別に展示されていたが、その造形と構図の面白さ、大胆さは別格という感じだった。