大井川通信

大井川あたりの事ども

『発掘・植竹邦良』展を観る

府中市美術館の企画展。市内在住の植竹邦良(1928-2013)は、ほぼ無名の画家だったが、美術館に寄贈された絵が郷土作家の作品として展示されるようになって、徐々に注目を浴びるようになったらしい。それが、没後10年たって、こうした企画展の開催に結び付くのだから、やはり一枚の絵画の力というものは侮れない。

僕が展覧会に行こうと思い立ったのも、フライヤーの表紙の、おどろおどろしくも近未来的な「最終虚無僧」という不可解なタイトルの絵の力だったのだ。展覧会を見て、自分がこの絵に吸い寄せられて理由が納得できた。

戦中派世代のこの画家は、50年代にはルポルタージュ絵画の運動に参加し、中村宏(1933~)と近い場所で活動していた時期があったのだ。独自のキャラクターやモチーフを多用し、モンタージュの手法を用いた奇抜な画面構成の迫力ある大作は、充実期の中村宏(あるいはタイガー立石)の作品と共通するところがある。電車や地形へのこだわりまで似ている。中村ファンの僕には大いに楽しめる展覧会だった。

図録では、中村さんがインタビュー取材を受けて、当時の時代背景を語っている。90歳になっても相変わらずお元気だ。美術展には企画展、常設展を含めて何点もの中村作品(後年の「タブロウ機械」の連作まで)が展示されていた。

こうしてみると中村さんは絵画の技術はもちろんだが、内省と自己批評によるスタイルの更新と転換が水際立っている。一方、ここにきて植竹邦良の愚直さが「戦後を映す夢想空間」(企画展のサブタイトル)として評価を受けるまでになったということだろうか。

 

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