大井川通信

大井川あたりの事ども

現代文学

『ゆるキャラの恐怖』 奥泉光 2019

奥泉光のクワコーものの最新刊が文庫化されていたので、購入して読んでみた。軽い読み物を楽しめたらと思ったのだが、残念ながら今回もクワコ―が主人公のドタバタ喜劇(ライトノベル?)は、僕には楽しめなかった。 『モダールな事象』における桑潟幸一助教…

目羅博士 vs.『幽霊たち』

『幽霊たち』は、ポール・オースター(1947-)の1986年の作品。 昨年末から、自分の読書を、評論、詩歌、絵本、日本文学、外国文学、ノンフィクションの6分野で意識的に回していこうと思いついた。もともとはほとんど評論専門だったが、この5年くらいの間…

ビブリオバトル・プレゼン原稿(村田沙耶香編)

【導入:作家の講演会】 みなさんは、小説家の講演会に参加したことはありますか? 今では、テレビやネットで作家の話を聞くことができますが、遠目でも実際に姿を見て肉声を聞くのはいいものですよね。 僕は、7月に知り合いに誘われて、西南学院大学で、芥…

『田宮虎彦作品集第3巻』を読む

第5巻では、人物の一生をコンパクトに折りたたんで提示する技に冴えを見せていた田宮だが、この巻では、作者に近い人物の学生時代の日々を、引き延ばしてスローモーションで見せるかのように描いている。 私小説風の連作短編は、前作の設定を再度説明しなが…

『田宮虎彦作品集 第5巻』を読む

ネットオークションで、状態のいい作品集全6巻を安価で手にいれたものの、今までの僕ならそのまま書庫にお蔵入りになってしまうところだ。いつか読むというのが言い訳だったけれど、人生のタイムリミットが見えてきた感のある今では、それは通用しない。 幸…

古書『深尾正治の手記』の諸短編を読む

椎名麟三は、僕に新鮮な読書体験を与えてくれる作家だ。古本屋で投げ売りされているような日本文学全集の一巻を初めて読み切ったのは椎名だったし、戦後初期のシミだらけの古本で小説を読んだのも、この本が初めてだった。新刊が流通していないのが原因だが…

そうだ田宮虎彦を読もう!

ネット記事で、半世紀も前の『群像』(1974年1月号)に「批評家33氏による戦後文学10選」というアンケート特集があったのを知った。敗戦後30年弱。戦後文学をめぐる論争がまだ熱を帯びていた時代だ。 残念ながらネットでは全員分ではなく、その三分の二…

『深尾正治の手記』 椎名麟三 1948

敗戦後わずか二年半で出版された古い作品集で、この中編小説を読む。どのページにもシミが広がっているが、紙質が悪くとも製本だけはしっかりしていて、読むことに問題なかった。 僕は本に関しては比較的潔癖で、少しでも汚れた古本を買ったりすることはない…

『美しい女』 椎名麟三 1955

三年前にブログを始めた時に、これを機会に苦手の小説にとりくもうと思って、まず手に取ったのが、古本屋で200円で買った椎名麟三(1911-1973)のアンソロジーだった。ハンデサイズの文学全集の一冊で、50年前の本だったけれど、ページを開いた形跡がなく、…

予言をめぐって(『第四間氷期』 安部公房 1959)

安部公房(1924-1993)の『第四間氷期』(1959)を読む。 題名から、勝手にスケールの大きくてスマートなSF活劇みたいなものを想像していたのだが、50年代の安部作品らしい、ねちっこい対話で構成された、不気味に歪んだイメージの話だった。 この小説で重要…