大井川通信

大井川あたりの事ども

教育

読書感想画の謎

2月の吉田さんとの勉強会で、吉田さんは「読書感想画」に関する回想メモを書いてきてくれた。僕は「読書感想画」というものは知らなかったが、吉田さんの育った別府では、小学校6年生と中学の3年間は、夏休みの宿題に読書感想画を書かせられたそうだ。吉田…

さようなら、片峯さん

飯塚市長の片峯さんが今日亡くなったという報道に驚いた。とにかく精力的な人でまだ67歳。僕が仕事でかかわった人の中で、とにかく気持ちがよく、無類の魅力をもった人だった。 教育長時代に他にさきがけて取り組んだのが、小学校でのタブレット端末の配置と…

ほめられたい

僕の今の職場では、目の前の机に高校の物理教師の同僚が働いている。ふだん雑談や冗談を言い合ったりする仲だが、理系に関する知識を尋ねたりすることもある。 僕は小学生の頃、近所に住む姉の友達の板橋さんから教えられて、現代教養文庫の『面白い物理学』…

差別語とマイクロアグレッション

マイクロアグレッション(微細な攻撃)は、1970年代にアメリカの精神医学者が提唱した概念らしく、近頃、日本の人権問題、人権教育の領域でよく耳にするようになった。いかにも海外の「最新理論」と真新しいカタカナ語の導入を無条件で受け入れる業界らしい…

『ふるさとの生活』 宮本常一 1950 

あらためて名著『失われた日本人』を読んでみたら、とてもよかったので、手持ちの宮本常一の本から、読みやすそうな本を手に取った。もともと関心があったためか、書棚の奥に積読本が何冊もあることに驚いた。 戦後すぐに子どもむけに書かれているが、戦後新…

法学部・経済学部・商学部

宮本常一の名著『忘れられた日本人』の中に、とある「世間師」(奔放な旅を経験しているお年寄)の印象的なエピソードが記されている。彼は名を左近熊太といい、現在の河内長野市の滝畑の出身。明治になって22歳の時に西南戦争(1877)で徴兵されるまで、字…

新編『綴方教室』 豊田正子著 山住正己編 1995

『月明学校』と『山びこ学校』からの流れで、戦前の綴り方作品の傑作である豊田正子(1922-2010)の本を読む。『綴方教室』(1937)、『続綴方教室』(1939)、『粘土のお面』(1941)の三冊から抄録した岩波文庫版である。『山びこ学校』と同じく1995年の…

『遠い「山びこ」』 佐野眞一 1992

偶然だが、昨秋、著者の佐野眞一(1947-2022)の訃報に接している。「無着成恭と教え子たちの四十年」という副題が示すとおり、無着成恭の『山びこ学校』(1951)の周辺を辿るノンフィクションということで、2005年の新潮文庫版の古書を取り寄せた。 昨年末…

『山びこ学校』 無着成恭編 1951

この著名な本も、戦後50年を区切りに岩波文庫に入った当時手に入れて、四半世紀の積読を経てようやく読了した。同じころ話題になった『月明学校』を先日読んだことがきっかけだが、『やまびこ学校』の方が反響も大きく、後世への影響もずっと大きかったとい…

『月明学校』(三上慶子 1951)を読む

市立図書館で県内の他館の蔵書を取り寄せてもらって、昭和26年(1951年)出版の古く変色した本を読む。球磨盆地を旅行して、かつて白髪岳近くの山中にあった山の分校の記録を読んでみたいと思っていたのだ。 読んでよかった。当時は同年に出版された無着成恭…

中学生のビブリオバトル

少し前だが、中学生がバトラー(発表者)になるビブリオバトルに参加した。今回も運営を手伝うようにしたのだが、自分がプレゼンしない会というのは本当に気楽だ。 参加者として、思いついた質問をしてバトラーとやり取りするのは、かえって楽しみでもある。…

80点の謎

資格試験受験には、定年後の仕事への準備という意味合いもあるし、実際に自分の知力や記憶力がどのくらい衰えているのかを確認する意味合いもあった。 勉強は、若いころそれを本職としていた頃のイメージで行うものだろう。このくらいの試験なら、このくらい…

ITパスポート試験を受ける

いよいよ本年度最後に受験する資格試験であるITパスポート試験当日。 まるで資格試験オタクみたいな半年間だったが、実は実際に勉強するのは、30歳前後に、社労士、宅建、行政書士の試験を受験してから30年ぶりのことだ。久しぶりだからバタバタしたが、3回…

『文部科学省』 青木栄一 2021

文部科学省と日本の教育行政についての全体像と、その批判的な把握が簡潔に提示されている。 それは端的にいうと「内弁慶と外地蔵」の二面性ということになるだろう。筆者によると官邸や他の省庁にたいしてとても脆弱であるであるのに対して、「身内」である…

僕の資格試験勉強法(基本形)

まず、そのジャンルを網羅するテキストを「基本書」として選ぶ。これは何度も読み返す本だから、できるだけ読みやすく相性が合うものがいい。そしてとりあえず全体像を把握するために、ざっと読み飛ばす。 次に試験の「過去問」の問題集で使いやすそうなもの…

追究の鬼を育てる

僕は、仕事がら教師たちと接することが多い。その仕事ももうすぐ終わるのだが、それまでに仕事関連で購入した教育書にできるだけ目を通そうと思っている。 有田和正(1935-2014)は、地元出身で、全国区で著名になり活躍した教育者として、地域の先生たちか…

What と Way

マネジメントの教科書で、日本の組織は、部下への機会の与え方を支援の仕方において、弱点があるということを書いてあった。 肝心なのは、適切な課題(What)と同時に、それをいかにしてやるのか(Way)というコツを教えるということだった。そして、そのコ…

「楽ちん戦略」ということ

20代の頃、塾の専任講師を三年間やっていた。教育に志があったわけではなく、最初の会社を辞めて、生活のためにたまたま見つけた仕事だった。 塾では、小中学生に社会科を教えた。進学塾なので、クラスは学力別に、S、H、M、Bと分かれている。Bクラスはベイ…

サクラサク

読書会仲間である友人から息子さんが第一志望高に合格したという連絡を受けた。昨年の秋の読書会の三次会で、珍しく彼と二人きりになった時、息子さんの受験勉強をみているという話を聞いた。大学の英語教師である彼は、毎日帰宅後息子さんに英語を教えてい…

『白菜のなぞ』 板倉聖宣 2002

「仮説実験授業」で有名な板倉聖宣(1930-2018)が、1994年に学習用副読本として執筆した本を、一般の科学読み物として再刊したもの。新刊当時購入してから、20年近くたってようやく手に取った。 薄いのですぐに読めたが、とにかく面白かった。日本人が白菜…

粕谷先生の思い出

中学校に上がると、剣道部に入った。スポーツが好きでも得意でもなかったのに入ったのは、親から言われたからと思っていたが、同じ部活に小学校時代の親友も多く入部していたので、その影響もあったのかもしれない。 顧問は粕谷先生という社会科の先生で、校…

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレンディみかこ 2019

読書会の課題図書。面白かった。親子による多様性のためのレッスンともいうべき物語で、すみずみにまで神経の行き届いたテキストになっている。 登場人物の個性も、エピソードの描き方も、ストーリーの展開も、言葉のセンスもとても心地がいい。だから、よく…

『教育委員会が本気を出したらスゴかった』 佐藤明彦 2020

これもまたコロナ禍の初めの数か月におけるドキュメンタリーのような本。あの戸惑いや不安を経験している身からすると、確かに熊本市の教育委員会と学校の対応は、群を抜いて迅速であり、見事だったと思う。 題名と出版のタイミングから、やっつけ仕事みたい…

『英語化は愚民化』 施光恒 2015

扇情的な題名に反して、というか内容はまさに題名のとおりなのだが、実にまっとうな議論が展開されている。語学の専門家ではなく、政治学者の手になるもののためか、目配りが広く近代化のメカニズムからの立論には説得力がある。 大きな風呂敷を広げたうえで…

『学校が泣いている』 石井昌浩 2003

2000年前後の東京の国立市における公立学校の現状について、現役の教育長という立場からのレポート。この報告の30年くらい前に、「文教地区」国立で教育を受けたことをそれなりに誇りに思ってきた自分には、刊行当時読んで、ショッキングな内容だった。 初読…

『〈希望〉の心理学』 白井利明 2001

ずいぶん前に購入した新書を初読。少し前に『夢があふれる社会に希望はあるか』を読んだとき違和感が強かったので、それをぬぐうために手に取ってみた。 前著は、キャリア教育の専門家の本のためもあって、夢=なりたい職業という世間の等式を前提としたうえ…

『飛ぶ教室』 エーリッヒ・ケストナー 1933

ケストナー(1899-1974)の児童文学の名作が読書会の課題図書になる。 ファミレスで読んでいて、涙が止まらなくなり、鼻をかんだナプキンで空いたお皿がいっぱいになった。無垢で健気な子どもと善意の大人の物語というのが、自分にはツボだということがよく…

『直感でわかる数学』 畑村洋太郎 2004

数学は苦手だったにもかかわらず、今でもたまに読み物風の入門書などに手を出してしまう。わかるようになりたい、という気持ちがどこかに残っているのだろう。たいていは開くこともないけれども。 この本は、ブックオフで200円で買ったもので、積読の運命に…

『学校の戦後史』木村元 2015

以前、政治学者原武史の『滝山コミューン1974』(2007)を読んだときに、近代以降の歴史について専門分野にとどまらない膨大な知識をもっている著者が、戦後教育の歴史について無知であることに驚いたことがある。この本を高評価でもって迎え入れた論壇や読…

『夢があふれる社会に希望はあるか』 児美川孝一郎 2016

著者は、今の世の中が「夢を強迫する社会」となっていること、学校におけるキャリア教育がこの風潮を作っていることを指摘する。この指摘は、はじめ僕には違和感があった。これが本当なら、僕の知らないところで、いつのまにか世間がそうなってしまったこと…