大井川通信

大井川あたりの事ども

「へこむ・凹む」再論

国木田独歩の短編を読んでいたら、こんな文章を見つけた。 「僕が高慢な老人を凹ましたかのか、老人から自分の高慢を凹まされたのか分からなくなったが、兎も角、少しは凹ましてやった積で宅に帰り、この事を父に語った」(「初恋」1900) まさに、凹むのオ…

不一致と定点(昔書いた演劇メモ➁)

前回の理屈を踏まえると、現代演劇のいくつかの特徴、というかうま味のあるポイントをあげることができる。 1.役者と役柄との不一致 同じ役者が複数の役柄を演じたり、あるいは同じ役柄を複数の役者が演じたりすること。または、役柄を離れた役者が、舞台…

記号と意味(昔書いた演劇メモ①)

数年前小劇場の舞台を見始めたころ、最初に引っかかったのは、岡田利規の「役柄と役者の一致ということが、演劇を面白くなくしている正視に耐えないウソだ」という言葉だった。僕は岡田さんの芝居自体にはそれほど惹かれなかったのだが、彼の言わんとすると…

じろじろみる/じっとみる

昔みた演劇のパンフレットをみていたら、演出家の倉迫康史さんが、こんなことを書いていた。倉迫さんのつくる小劇場の舞台が大好きで、『夜と耳』は僕のみた最高の舞台だったと断言できる。 「演劇とはそもそも官能的な体験なのだと僕は思います。だって生身…

『漱石文明論集』 三好行雄編 1986

岩波文庫の一冊を、購入後20年して読んだ。『吾輩は猫である』からの流れなのだが、漱石の評論をじっくり読んだのは初めてだ。読んでよかったと思う。自分の年齢と読書量を考えると、何を読むべきか優先順位をつけることの大切さをあらためて感じる。 漱石は…

『仮面の告白』 三島由紀夫 1949

三島の自選短編集を読書会の課題図書で読んだのだが、どこにもひっかかるところがなく、付せんも貼れなかった。小説でもこんなことは珍しい。これでは読書会でしゃべることがない。 それで大慌てで、手持ちの『仮面の告白』を読んでみた。こちらは面白く、付…

『花ざかりの森・憂国』 三島由紀夫 1968

新潮文庫に入っている自選短編集。読書会の課題図書で読む。 三島自身の自己解説を読むと、その内容と技術にはかなり得意な様子がうかがえる。また三島自身がその思想や生き方で、さまざまな論点を提示している人だから、読書会での議論も、その論点を取り上…

ナンシー没後20年

ナンシー関が亡くなって、20年。それが6月なのは覚えていたが、日付まで意識したことはなかった。これからは彼女の忌日は大切にしたいと思う。 ナンシー関(1962-2002)は、僕が一番同世代を感じた好きな書き手だった。年齢は一つ違いで、ほぼ同じ時代の風…

『まだまだ身の下相談にお答えします』 上野千鶴子 2022

朝日新聞身の上相談コーナー連載記事からの三冊目。新聞連載時にも時々目を通していたが、どれも面白く、心に残る。他の相談者のものとは格段にレベルが違う気がする。 やはり男女の関係、家族の関係を主戦場にした理論活動をしつつ、実際にそこで戦ってきた…

へこむ・凹む

以前からちょっと気になっていたことがある。「押す」という言葉がアイドルの応援という場面に転用されてなるほどと思ったように、かなり以前に、ある言葉の転用に納得させられたことがあったのだ。 もう30年以上前で、20代で塾講師をやっていた時だった。講…

押す/押さない

定年後は仕事をしないという同年齢の知人にその理由を聞くと、「押し活」に専念したいからということだった。ロックバンド「エレファントカシマシ」のファンで、全国のライブにも参加しているという。 もうだいぶ前に、アイドル界隈で、推しメンという言葉を…

久しぶりにSF映画を観る

ワクチンの副反応で、関節痛がして体調がよくない。自宅で静養していても、本を読んだりする集中力がない。ふと思いついて、ネットで映画を観ることにした。映画のビデオなら特別な集中力がいらないし、体調の不調を一時忘れることもできるだろう。 ネットの…

ブリキのおもちゃ

少し以前の話だが、先月の吉田さんとの勉強会で、食玩のブリキのおもちゃのミニチュアを持参した。その前の月に横山光輝の漫画のキャラの食玩を紹介して盛り上がったことに味を占めたものだ。 もう二十年近く前になるが、食玩(玩具がおまけについたお菓子)…

漱石の「地域通貨」

昔、少年向けの文学全集などに、漱石のエッセイ風の小品が入っていて、読んだ記憶がある。あと、旺文社文庫の長編の付録みたいな感じでの収録もあった。 だから、漱石の小品集の標題にはなじみがあったが、その一つである『永日小品』(1909)を読み通すのは…

『「吾輩は猫である」殺人事件』 奥泉光 1996

石の『猫』を読了したので、以前からもっていた奥泉光のこの本を手にとってみる。奥泉光は好きな作家で、彼の小説は読まないまでもかなり集めてある。長いものが多く、たくさんの知識を背景に周到に構築された複雑な筋立ての作品が多いから、読めば面白いの…

「奇天烈」林間散歩

今の職場の前には大きな都市公園があり、アスファルトの周遊路がめぐっている。昼休みにそこをジョギングしたり散歩したりする人もいる。 しかし、その道は日差しがきついし、通勤時にその一部を歩いているから面白みがない。だから僕は、周遊路の内側の芝生…

奇想・奇天烈男

「奇想奇天烈・きそうきてれつ」という言葉はない。奇想天外(思いもよらない奇抜なこと)と奇妙奇天烈(ひどく変わっていて不思議なこと)とが混ざった造語だろう。 最近、妻から、あなたは奇想奇天烈だと指摘される。 意外だった。おかしいといえば、もと…

小劇場で芝居を観る

コロナ禍のせいで、しばらく芝居を観ていなかった。 来月に、知人の主宰する企画で、ダンスを読むというイベントに参加することになった。複数のダンサーによるコンテンポラリーダンスのパフォーマンスに対して言葉による解釈で介入していくという試みになる…

『熟語公式で訳す英文解釈問題集2』 篠崎書林 1993

高校の英語の授業は、当時、リーダー(読解)とグラマー(文法)とコンポ(作文)に分かれていた。といっても、みんなでそう言い慣わしていたからそう呼んでいただけで、授業の中身がきちんとその言葉通りに切り分けられていたわけではない。 教科書は指定さ…

『哲学入門一歩前』 廣松渉 1988

今年の廣松さんの忌日(5月22日)には、この本を手に取る。巻末のメモだと、出版年とその翌年に読んで以来の33年ぶりの読了となる。しかし若いころに読んだ本のためか、その内容はよく頭に残っていた。 廣松さんの四肢的構造論の骨組みは、説明する漢語は難…

『手品と奇術の遊び方』 大野萬平 1973

永岡書店の実用百科シリーズの一冊。 古書店を見ていたら、店外に置かれてる棚の本のなかに見覚えのある背表紙のこの本を見つけた。手に取ってみると、装丁も挿絵も記事もみな懐かしい。僕が小学6年生の時の出版だから、まちがいなく手品のマイブームのさな…

こんな夢をみた(観覧車と大竜巻)

夢は、いくつかのエピソードの羅列というのが真相に近いだろう。目覚めた瞬間に、直近のいくつかのエピソードを思い出して、それに無理にストーリーをつけようとする。多少無理があっても、偶然ストーリーとして筋が通ったときに、夢としてはっきり印象付け…

ホトトギスの初音

5月26日の早朝、ようやく今年初めてのホトトギスを聞いた。遠くから、ホッケッキョキョの繰り返しが小さく耳にとどく。その翌日の夕方も庭でホトトギスを聞く。 気になったので、この10年ばかりのホトトギスの初音の記録をざっとまとめてみる。ノートをひっ…

カラスの攻撃(続き)

翌朝、同じところを通ると、野原のさきで相変わらずカラスがしゃがみこんでいる。芝生の養生のために立入禁止のロープが張られている場所なので、とりあえず人は近づけない。同僚に昨日の武勇伝を話すと、さっそく見に行って、報告してくれた。 二羽のカラス…

小型黄金蜘蛛の隠れ帯

僕の家は、以前レッドロビンの垣根で囲われていたが、管理も悪いこともあって伸び放題の上、虫がついてかなり枯れてしまったので、3年ほど前、擬木のフェンスに替えた。そこだけは少し贅沢をして、擬木の板のうち一段をアルミの鋳造品を入れたのが我が家の自…

カラスの攻撃

仕事の帰り、都市公園の出口あたりを歩いていると、すぐ近くの茂みでカラスがうずくまっている。少し近づいてみるが、どこかケガしているのか遠くまで飛ぶことができない。心配してみていると、近くの低い電線に数羽のカラスが集まってきて、ガアガアと激し…

コロナ感染から一年/入院患者に手を振る

あの激動の一か月から一年が経った。この「事件」のためにたくさんのことを考えたし、これをきっかけに自分で動いたことも多かった。 初心を忘れないために、死線をさまよい治療に苦しんだ病院を訪ねてみる。リハビリの歩行訓練の途中にいつも窓から見下ろし…

アーケード街でライブを聴く

あらためて自他の身体を軸に据えて、いろいろ考えたり生活したりしようと思っている。自分の身体を新しい環境にさらしたり、他者の身体とかかわらせたりすることに意識的であろうと試みている。新しい身体経験を通じて発見したことを言葉にして、自分の言葉…

擬態を考える

昆虫の擬態について考えると、訳が分からなくなって、途方に暮れてしまう。しかし、今回は「カレハガ」が見事な擬態を見せてくれたのだから、そのことを考えずにはいられない。僕が考えられる範囲のことをメモしてみよう。 たとえば、僕の好きな蛾のオオスカ…

カレハガの擬態

僕の家の駐車スペースは、家屋の北側にあって、隣家の敷地(一メートル以上高い)との間に挟まれているから、少し湿っぽい。だから時々、珍しい昆虫がやってくる。 車の乗り降りの際に、家の壁板に枯れ葉が引っかかっているのに気づいた。次の乗り降りの時に…