大井川通信

大井川あたりの事ども

「痕跡を消せ」 ブレヒト 1926

仲間とは駅で別れろ、/朝、街にはいるとき上着のボタンをきちんととめろ、/ねぐらを探せ、たとえ仲間がノックしようとも、/開けるな、いいか、ドアは開けるな、/それよりまず/痕跡を消せ! ハンブルクであれどこであれ、親に出喰わしたら/そしらぬ顔で…

「都会人のための夜の処方箋」 ケストナー 1930

どのバスでもいい、乗りこむこと。/いちど乗りかえてもかまわない。/行先は不問。いずれわかってくる。/ただし、夜を厳守すること。 いちども見たことのない場所で/(当件にはこれが必須の条件)/バスを降り、闇の中に/身を置くこと。そして待つこと。…

こんな夢をみた(たまった仕事)

夢の中でも、僕の仕事は、数年で転勤を繰り返す事務仕事だった。ふと思い出すと、どの職場にも、やりきれなかった仕事が密かに残っている。それぞれかなりの分量で、発覚したら責任を追及されるだろう。冷汗がでる。 こうなってしまったのも、やりたくない仕…

拳法の構え

今の職場に、空手の達人がいる。若いころから全国大会で注目を浴び、還暦を過ぎた今でも、全国組織の役員や大会の審判として全国を飛び回っているようだ。ネットで検索すると、空手雑誌で本人の特集記事を組まれたりしているから、本物だろう。 若い時からの…

『カニは横に歩く』 角岡伸彦 2010

副題には「自立障害者たちの半世紀」とある。500ページのドキュメンタリーで読みごたえ充分だった。僕も個人的な理由から、自分自身の生き方を振り返らざるをえないような読書体験になった。 著者の角岡信彦氏(1963~)は僕とほぼ同世代。処女作の『被差別…

九大病院の長塚節

九州大学医学部病院というと、ドグラマグラの舞台になったり、生体解剖事件が起きたりしたなど、おどろおどろしいイメージがあるけれども、最近、知人から、歌人で小説家の長塚節(1879-1915)の終焉の地であることを教えられた。 長塚節の代表歌集が『鍼(…

スーパーのお惣菜を歩きながら食べる方法

詩歌を読む読書会で、僕が注文した焼きそばを食べていると、隣に座った新メンバーのYさんが、ずいぶん食べるのが早いと驚いていた。60年代の貧しい時代に育ったから、目の前の食べ物を素早く取り込む習慣があるんですと言い訳したけど、Yさんは納得していな…

ビブリオバトル・プレゼン原稿(村田沙耶香編)

【導入:作家の講演会】 みなさんは、小説家の講演会に参加したことはありますか? 今では、テレビやネットで作家の話を聞くことができますが、遠目でも実際に姿を見て肉声を聞くのはいいものですよね。 僕は、7月に知り合いに誘われて、西南学院大学で、芥…

台風襲来

台風11号がやってきた。台風は夏から秋にかけての風物詩や年中行事みたいなものなのだが、その姿は少しずつ変わってきたのを感じる。 気象観測や予測の精度があがり、勢力や接近の時間までが事前にわかるようになったことが大きい。確実に発生が予見できる災…

ラフカディオ・ハーンのレンズ

時々、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲 1950-1904)の怪談が無性に読みたくなる。で、角川ソフィア文庫の池田雅之編訳による『新編 日本の怪談』を読んでみた。ハーンには『怪談』という著書があるが、それ以外からも大小の珠玉の怪談を集めて、テーマ別に…

『アメリカで真宗を学ぶ』 羽田信生 2022

今年も近所の浄土真宗の聞法道場(勉強会)で、羽田信生先生の特別講座があったので、申し込んで聴講した。コロナ禍で先生は来日できないから、昨年同様オンラインでの講義だったけれど、力のこもった羽田節を堪能できた。 羽田先生を知ったのは10数年前だが…

『田宮虎彦作品集第3巻』を読む

第5巻では、人物の一生をコンパクトに折りたたんで提示する技に冴えを見せていた田宮だが、この巻では、作者に近い人物の学生時代の日々を、引き延ばしてスローモーションで見せるかのように描いている。 私小説風の連作短編は、前作の設定を再度説明しなが…

安部文範さんを悼む

安部文範さんの訃報に接する。 2年前の夏に不慮の病に倒れたものの、昨年末には手紙のやり取りもできるまで回復していた。ただ、コロナ禍の入院で見舞いすら許されなかったのが、もどかしかった。 もう少し待ちさえすれば、安部さんの生活がどういうものに…

関東大震災直後の映像を観る

今日は、関東大震災発生から99年目の日となる。地震直後の東京の被害や救援活動を写した貴重な動画がネットで公開されている。写真でしか見たことのない震災被害が比較的鮮明な映像で30分以上残っていて驚いた。 僕の父親は震災の翌年の3月に生まれているか…

次男の作文(一年目の反省と来年の抱負)

今年を振り返って、4月の1日目、改めて〇〇に行って、施設内に入った時は「ぼくの仕事人生はここから始まるのか」と思いました。 まず最初に行った仕事は、〇〇朝礼の誘導でした。最初はトレーナーさんと二人で誘導していましたが、段々慣れてきて、今では…

次男の作文(育ててくれてありがとう)

私は今から22年前に〇〇県〇〇市の〇〇家の次男としてこの世に生を受けました。生まれる際、軽い障碍と、日常生活や仕事などに支障が出る病気を患ったのですが、父や母のおかげで長い時間をかけて寛解する事ができ、軽い障碍は両親にサポートしてもらいなが…

『田宮虎彦作品集 第5巻』を読む

ネットオークションで、状態のいい作品集全6巻を安価で手にいれたものの、今までの僕ならそのまま書庫にお蔵入りになってしまうところだ。いつか読むというのが言い訳だったけれど、人生のタイムリミットが見えてきた感のある今では、それは通用しない。 幸…

舞台版『気づかいルーシー』を観る

先々週と同じく、北九州芸術劇場の中劇場で観劇する。前回の失望が大きく、チケットを買っているものの、今回はさぼろうと思ったほどだった。といっても家でのごろ寝ほど精神にも身体にもよくないことはない。気をとりなおして出かけることにした。 コロナ明…

思わず舞踏に触れる

知り合いから絵の展示と詩の朗読などの集まりに誘われた。読書会仲間が詩を読むから参加したのだが、音楽の演奏と舞踏のパフォーマンスもあって、マイブームの舞踏に予想外の場面で触れることができた。 アパートを改造したアトリエで、10人ばかりが坐ると、…

長男と飲む

再就職した長男の職場は博多駅の近くにあって、僕もこの4月からはこの近辺で働くようになった。お盆休みに話したときに、こんど、仕事帰りのサラリーマンみたいにいっしょに飲もうかというと、そうしようという。それで、実際にメールで誘ってみると、意外…

古書『深尾正治の手記』の諸短編を読む

椎名麟三は、僕に新鮮な読書体験を与えてくれる作家だ。古本屋で投げ売りされているような日本文学全集の一巻を初めて読み切ったのは椎名だったし、戦後初期のシミだらけの古本で小説を読んだのも、この本が初めてだった。新刊が流通していないのが原因だが…

そうだ田宮虎彦を読もう!

ネット記事で、半世紀も前の『群像』(1974年1月号)に「批評家33氏による戦後文学10選」というアンケート特集があったのを知った。敗戦後30年弱。戦後文学をめぐる論争がまだ熱を帯びていた時代だ。 残念ながらネットでは全員分ではなく、その三分の二…

『坑夫』 夏目漱石 1908

この小説は、若いころに読んだ柄谷行人の漱石論でも評価されていたし、自分の炭坑ブームもあったから、もっと早く読んでいてもよかった気がする。そうはならなかった理由が、今回読み通してよくわかった。 さほど長くはない小説だが、とにかく読み通すのに骨…

『深尾正治の手記』 椎名麟三 1948

敗戦後わずか二年半で出版された古い作品集で、この中編小説を読む。どのページにもシミが広がっているが、紙質が悪くとも製本だけはしっかりしていて、読むことに問題なかった。 僕は本に関しては比較的潔癖で、少しでも汚れた古本を買ったりすることはない…

漱石の句を読む

読書会で岩波文庫の『漱石俳句集』を読んだ。 順番に一つ作品を選んで感想をいい、参加者全員からコメントをもらうというやり方(これを三巡する)の会だから、自分が一ネタをしゃべれるだけではなく、各人それぞれの読み方ができるふくらみをもっていること…

『民主主義とは何か』 宇野重規 2020

読書会の課題図書。民主主義という概念の歴史をわかりやすく丁寧に論じていて、一読勉強になるという感じ。しかし辛辣にいうと、一週間後に何か残っているかというと、何も残っていないという読書体験だった。 それはなぜか。この本で提出された問いと答えや…

盆明けからは逆襲だ(by 絶望退職おじさん)

お盆が終わったら、とたんに涼しくなった。例年このころは秋の気配を感じるようになる時期だが、今年はちょっと極端だ。 このところの怠惰の言い訳として、猛暑やそれによる夏バテのせいにしたところがある。この過ごしやすさを反転攻勢のきっかけにしよう。…

こんな夢をみた(管理職試験)

職場の管理職の試験を受けにいく。駅は、東京の武蔵境のようだが、実際の姿とはかなり違う。僕は「受験票」を忘れていて、それを気にしている。たぶん口頭で申告すれば大丈夫だろう。(自分は退職しているから、この試験にどんな意味があるのだろう、と若干…

岡庭昇と吉本隆明(再掲)

岡庭昇(1942-2021)を読み直すときに、吉本隆明(1924-2012)の軌跡を参照軸にすることもできるだろう。狙いは、「戦後思想の巨人」に照らして、岡庭昇の仕事の大きさを示すこと。 〈詩と詩論〉 吉本隆明は詩人であり、詩についても多く論じている。前の…

教祖の息子

ある新宗教の教祖の長男が、ネットの動画配信者となって教団の暴露をしている。3年ばかり前からのことだが、今回初めていくつかをまとめて見てみた。 組織の内情の暴露といっても、単なる関係者と、教祖の家族しかも後継者として嘱望された長男とでは重みが…